息をするのと同じ。なぜ文筆家は軽視されがちな“メモ”についてあらためて考えるのか

 

■メモの汎用性

さて、メモについて書かれたノウハウ書はたくさんある。どんな規模の書店でも、1、2冊はメモ術の本は見つけられるだろう。メモは汎用的な存在なのだ。

あるいは本を引くまでもない。

私がコンビニで店長をしていたとき、いかにも「アルバイトするのは始めてです」という大学生が新人スタッフとして入ってきたら、まずメモ帳とペンを渡していた。企業の新人研修でも同じような場面は多いだろう。「同じことを聞き返さなくてよいように、言われたことはメモしておきましょう」とテープコーダーのようにくり返しアドバイスしている人もいるはずだ。電話を受けたときの伝言メモの書き方なんかも、きっと最初のうちに教えるはずである。

仕事の技術(仕事術)において、メモはもっとも基礎的なものとして扱われている。そういっても過言ではないだろう。

他にもある。たとえば、知的生産や発想の技術においても、やはり「メモすること」は重要だと説かれている。なにせ私たちの脳は忘れっぽいので、いろんなことをひょいひょい忘れてしまう。そして、自分が思いついたこと(着想)は、一度忘れてしまうと外部的なサルベージが不可能である。どれだけググっても、失われた自分の着想を見つけることはできない。だから必ずメモしておきましょう、というわけだ。

同様に、本を読むときも読書メモをつけることが進められる。本を読んでそのままにしておいても、やっぱり中身を忘れてしまう。だから、うまく思い出せるようにメモしたり、自分なりに内容をまとめておくと理解が進むという寸法だ。

これらも最終的な成果物に直接貢献するというよりは、それよりももっと手前のプロセス、言い換えれば基礎的な行為として位置づけられている。

結局のところ、仕事術においても知的生産の技術においても、共に「メモの重要性」は説かれている。そして、それぞれは発展的というよりは、基礎的な行為として扱われている。というよりも、メモが基礎的であるからこそ重要なのだという構図があるのだろう。

そして、仕事術や知的生産の技術以外の領域でも、メモは活躍するはずである。たとえば、家政(家の取り回し)、マネジメント、趣味、学業、トレーニング……。ひろく人間が情報を扱う場面であれば、メモが活躍する余地はかならず存在している。

いや、「活躍」と表現したが、おそらくそれはそんなに華々しいものではないだろう。むしろ「裏方として舞台を支える」とかそういうイメージが近い。

メモするだけで、具体的な成果を直接生み出すことはできない。しかし、その「成果を生み出す」という行為を背後から支える力がメモにはある。

だからこそ、メモには「あえて」注目する必要がある。華々しい表舞台から遠い場所にはフォーカスが当たりにくいからだ。また、メモがさまざまな場面でその機能を発揮することを考えれば、メモについて検討することの有用性は──単にメモ魔の趣味を越えて──高いと言えるだろう。

では、その「メモ」とは何だろうか。ひき続き考えていこう。(つづく)

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1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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