岸田「アメリカ頑張れ、日本が支える」という心中宣言
この度の過ぎた美辞麗句の散乱が虚しいのは、すでに冷戦が終わって3分の1世紀が過ぎて、本質論の次元で言えば、もはや「自由民主主義」と「独裁権威主義」とで世界を二分する「陣営」は存在せず、従ってまたその片方の陣営内においても、予め「仮想敵」を設定しそれに立ち向かうため「盟主」とその下に結束する「同盟国」とで「敵対的軍事同盟」を結成するという観念も意味を失ってしまったというのに、今頃になって「米国はまだ頑張って下さい、日本が世界の誰よりも忠実な同盟国として貴方を支えますから」と申し出ているという、そのどうにもならない時代錯誤性にある。
米国民の中に米国のみが国際秩序の守り手として頑張らなければならないのかという「自己疑念」が生じている、と。岸田さん、この演説の中で一番正しいのはこの一文ですよ。冷戦が終わって西側陣営の「盟主」すなわち世界資本主義の先頭に立つ「覇権国」というポジションが消失して、しかしそれでもまだ十分に世界最大の経済力と軍事力を持つ米国は冷戦後の世界の中で果たしてどのように自分の役割を定義して上手に振る舞って行けばいいのか、よく分からない。
これが米国にとって最大の悩みで、例えばバイデン政権の姿勢を見ても、ウクライナに戦争をやれやれとけし掛けておいて途中から支援を止めたり、イスラエルのガザ虐殺を支持するかのことを言いながら余りに酷くなると抑えにかかったり、オロオロしているのは単なるバイデンの優柔不断とかいう話ではなく、米国が世界の中で何をすればいいのか分からなくなっているという表れなのである。
その時に岸田はこの演説で、「いや、悩むことなんかないですよ。冷戦時代と同様に堂々と『盟主』として振る舞ってくれればいいんですよ。今度は日本が脇に付いてとことん支えますから」と言っているのである。
しかしこの進言は間違っており、米国の悩みをますます解決不能に導く危険がある。しかもそのようにしてますます間違って行く米国という老いた駄馬の沓を取って走ろうとするのだから、日本も一緒になって間違えて、手に手を取り合って心中するようなことになりかねない。
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