日本は正気を取り戻せ。中国との関係“破綻防止”に本腰を入れ始めた米国に気づかず議会で中国批判をぶち上げた岸田の錯乱

 

米中両国間の協力が可能な「7つの分野」

ワシントンで「外交政策マフィア」とか「外交政策エスタブリッシュメント」とか呼ばれる人たちは、政権に入ってホワイトハウスの安保担当補佐官や、国務省・国防総省の長官、次官、次官補、大使などの高官を務め、政権が変わると大学やシンクタンクに籍を移して評論家や研究者として振る舞う知的エリートたちで、ひと昔前は、共和党系ではニクソン政権の補佐官・国務長官だったキッシンジャー、民主党系ではカーター政権の補佐官だったブレジンスキーがその頂点にあった。2人が亡くなって、共和党系は今は誰とも名が浮かばないが、民主党系ではカーター、クリントン両政権で国務副次官や国防次官補を担ったジョセフ・ナイ=ハーバード大学名誉教授だろう。

彼が独立系の政策サイト「プロジェクト・シンジケート」に5月6日付で登場し、米中関係を正常な軌道に乗せるための「7つの分野」での努力方向について提言した。バイデン政権の対中国政策もヨタヨタを続けていて、それでも一昨年秋の習近平との首脳会談以降は基本は話し合い継続に落ち着いて来てはいるものの、政権全体できちんとした政策調整が行われている訳でもなく、軍部高官の無思慮な発言が飛び出したり、バイデン自身が発作的な発言をしたりして空気をかき乱すこともある。

そういう中、4月にはブリンケン国務長官が訪中して習と会談し、中国のロシアへの物資・技術支援や南シナ海でのフィリピンとの対立などを厳しく批判するなど、中身はかなり刺々しいけれども、ともかくも対話を絶やさないということ双方の意思は確認された形となっている。ちょうどその時、実はナイも「米中トラック2対話」の米側代表=アスペン戦略グループの団長として訪中していて、中国の中央党学校の代表団と突っ込んだ対話を繰り広げていた。

首脳同士だけでなく、実務官僚の各レベルや民間も含めていくつもの対話チャネルを敷設していることが、米中関係のある意味での成熟度を示していて、これもその1つ。トラック2とは、政府間の公式のトラック1に対する民間同士の自由な対話回路という意味で、日本はこういう発想展開の爪の垢でも舐めた方がいい。

(2)ジョセフ・ナイ「米中関係にはまだ可能性がある」(プロジェクト・シンジケート5月6日付)要旨

▼米国の対中国政策が「関与」から「大国間競争」へと転換したとはいえ、それはいくつかの領域での協力を妨げるものではない。サッカーに例えれば、両チームは激しく闘うが、蹴るのはボールであって相手の選手ではない。そして誰もが白線の中で勝負すべきであることを分かっている。

▼中国側の何人かは、米国がガードレールの建設に熱心であることへの懸念を表したが、大勢は衝突を避けることこそ第一目標であることで一致した。その結果、我々は潜在的に協力が可能な7つの分野を確認した。

▼第1は気候変動。中国は引き続き石炭火力発電プラントを建設するが、再生可能エネルギーを急速に増やす。その結果2030年までに二酸化炭素排出のピークを迎えるものの2060年までに炭素中立を達成するとした。我々はその時間表をさらに繰り上げるよう求めた。

▼第2は全世界的な公衆衛生。科学者たちに言わせれば、次のパンデミックは来るかどうかでなく、いつ来るかだけの問題だ。コロナ禍では米中両政府とも対処に失敗し、何百万もの人が亡くなった。そのことでお互いを非難するよりも、2003年のSARSや2014年のエボラ熱を鎮圧した時の両国科学者の協力に学んで、その教訓を将来に活かすべきである。

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