中国側が潜水艦の脆弱性を米国に率直に語るという驚き
▼第3は核兵器。中国側は、地上配備のICBM(大陸間弾道弾)の建設が進み正確性も増している反面、潜水艦の脆弱性〔注〕が将来、第一撃を喰らった後の反撃能力を損なうのではないかと懸念していることを伝えた。彼らはまた、彼らの核装備が米国やロシアと拮抗するに至る以前に軍備管理制限を課されることを拒むというお馴染みの主張を繰り返した。とはいえ彼らは、核理論、概念、戦略的安定性、格不拡散、北朝鮮やイランのような難しい案件などについて、米国側と議論する意思があることを表明した。
〔注〕中国側が戦略ミサイル搭載の潜水艦の脆弱性について米国の専門家に対してこれほど率直に語るというのはかなり驚きで、私の解釈では、この脆弱性とは、海南島を出撃・休息・修理基地とする中国の戦略原潜部隊は、東シナ海の大陸棚方面に浅瀬には行かれないので、すぐさま南シナ海深くに潜ってそこから作戦行動を開始せざるを得ないのだが、そこが中国の領海であるとは国際的に全く認められていないというところにある。かつてのソ連極東の戦略原潜部隊はペテロハバロフスクを拠点として目の前のオホーツク海に潜り、そこから北太平洋や日本海に向けて行動したが、オホーツク海は領海であって何の問題もなかった。ここに、中国が南シナ海で常軌を逸するような態度をとる隠された理由がある。従って、本誌が前々から指摘しているように、南シナ海の海洋覇権トラブルは、米露中を含む戦略核兵器の相互削減交渉が始まらない限り解決しない。
▼第4は人工知能(AI)。昨秋のサンフランシスコでの習主席とバイデン大統領はAIの安全性について対話を始めることで合意したが、その後の政府レベルでの進展がなかった。米側は、特にこの技術の軍事への適用については非公開の私的な対話が必要であることに同意した。
▼第5は経済。双方は両国間の貿易がお互いの利益であることを認めたが、中国側は米国による高度半導体への輸出制限について抗議した。米国は安保上の理由を挙げるが、中国側はこれを同国の経済成長を規制することが目的だと見ている。
▼第6は中国の工業生産能力の供給過剰。中国の経済成長が鈍化する中で、中国は国内消費を高めるよりも補助金まで出して輸出を増やすことで現在の問題を抜け出そうとしている。しかし〔トランプ政権が中国に対し高関税を課したような〕双方にとって良くないデカップリングではなく、経済問題を3つに区分けしてバケツに入れるやり方をすることで合意した。片方の端には「安全保障」問題があり、これについては合意が難しい。反対側の端には「物・サービスの通常の貿易」があり、そこでは国際貿易ルールに従う。その中間に「補助金と供給過剰問題」があり、これはケース・バイ・ケースで交渉する。
▼第7は国民同士の接触。コロナ禍の3年間で激減してしまい、現在中国に留学している米国人は1,000人弱。それに対して米国に留学している中国人は28万9,000人に上るが、それでもピーク時の4分の3である。またジャーナリストのビザ支給に対する中国側の規制があり、学者や科学者のビザ発給に時間がかかりすぎることへの不満が双方にある。これらのことが相互理解の雰囲気を復活させるのを妨げている。
▼この「大国間競争」の時代にあって、今世紀初頭のような「関与戦略」に戻ることを期待すべきでない。しかし、紛争を避け、そして、いつどこで協力し合えるかの分野を特定しておくことは、双方にとっての利益となる。
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