日本は正気を取り戻せ。中国との関係“破綻防止”に本腰を入れ始めた米国に気づかず議会で中国批判をぶち上げた岸田の錯乱

 

正気を取り戻すべき岸田首相と彼を賛美したマスコミ

安全保障上の理由のほかに、中国経済の先行きが極めて深刻で、もはや崩壊寸前であるかのような悲観論が米国発で盛んに出回り、それがまたトランプ流のデカップリング論の動機ともなっている。しかし、ピーターソン国際経済研究所のシニアフェローであるニコラス・ラーディは、そのような悲観論は「4つの誤解」の上に成り立っていると切り捨てる。

(3)ニコラス・ラーディ「中国経済は成長を続ける/悲観派を惑わす4つの誤解」(フォリン・アフェアズ5月号)要旨

▼バイデン大統領〔も中国経済の先行きについての悲観派の一人で彼〕は今年3月の一般教書演説で「何年もの間、中国は台頭しつつあり、米国は後れをとっていると言われ続けてきたが、それは間違っていた」と述べた。確かに中国は、不動産市場の低迷、米国の規制による先端技術へのアクセス制限、生産年齢人口の減少など、よく知られたいくつかの逆風に直面している。しかし、1970年台に経済改革の道を歩み始めて以降、より大きな試練をこれまでも克服してきた中国は、今後も米国の2倍のペースで成長を続けるだろう。

▼中国経済のポテンシャルに対する悲観論の根底には、いくつかの誤解があり、その第1は、中国が米国の経済規模に近づくペースが停滞しているとする誤解。2021~23年に中国のGDPが米国の76%から67%に下がったのは事実だが〔それは名目GDPで見た場合で〕、23年の中国の名目GDP成率は4.6%であるのに対し実質GDP成長率は5.2%。それに対し米国は名目6.3%の成長だが実質は2.5%しか成長していない。ドル建ての名目GDPでも24年にはほぼ間違いなく米国のそれに近づき、約10年後には米国を上回るようになるだろう。

▼第2の誤解は、中国の家計支出、消費支出、消費者信頼感指数が弱いという見方だが、それを裏付けるデータはない。23年の一人当たり実質所得は6%増と、コロナ禍で鎖国状態にあった22年に比べて2倍以上の伸びを示しており、一人当たり消費も9%増だ。

▼第3の誤解は、デフレが定着しリセッションに向かうという見方だ。確かに23年の消費者物価は0.2%しか上昇しなかったが、コア消費者物価指数は0.7%の上昇だし、中国企業は借入を急増させ製造業・鉱業・サービス業での投資を増加させていて、リセッションの兆しはない。

▼第4の誤解は、不動産投資の崩壊の可能性に関するものだ。確かに、23年の住宅着工戸数は21年の半分だが、しかしこの2年間で不動産投資の総額はわずか20%しか減少していない。これはデベロッパーが支出のより大きな割合を、それまでに着工した住宅プロジェクトの完成に割り当てたからで、その結果、完成面積は23年に78億平方フィートに拡大し、初めて新規着工面積を上回った。政府の政策が、完成間近の住宅プロジェクトに特化した融資を銀行に奨励したことが功を奏した。

▼中国が抱える問題がいろいろあるのは事実だが、それを誇張しても誰のためにもならない。むしろ、中国が欧米に突きつけている極めて現実的な課題を前にして、自己満足に陥る危険さえある。特に米国は、中国がアジアでの経済的影響力を高めていきつつある流れを過小評価することによって、米国自身がアジアのパートナーとの関係を深化させていく能力を過大評価することになる。

……さあ、皆さん、どうでしょうか。ここでもう一度、深呼吸して、心静かに日本とアジアの全体状況を眺め渡そうではないですか。そうすると、4月の国賓待遇訪米で気持ちよく「中国の対外的な姿勢や軍事動向こそこれまでにない最大の戦略的挑戦」と歌い上げて拍手喝采を浴びてきた岸田文雄首相やそれを賛美したマスコミが、実は「精神錯乱」であるかもしれないという疑惑が湧いてくるのではないでしょうか……。

正気を取り戻すべき時である。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年5月13日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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