精神錯乱のようにしか見えない「中国の脅威」に関する議論
▼去る1月にはリック・スコット上院議員が中国製のニンニクの輸入を禁止する法案を上程したが、その際に彼は、それが人糞を肥料としていることを以て国家安全保障上の脅威となりうると主張した。また最近、トム・コットン上院議員らは国防総省が米国籍の個人教授システム会社Tutor.comと契約するのを禁止する法案を出したが、その理由は、同社が香港籍の会社に買収されたため、中国政府が裏口からペンタゴン内に入って個人情報などを収集する危険があるとのことだった。このような「中国の脅威」に関する議論の多くは、精神錯乱のようにしか見えない。
▼こうした中国怖い論の最も憂慮すべき結果は、中国系米国人に対する「新黄禍論」とも言うべき差別である。私と、私の中国研究の同僚とで最近、2,500人の米国人を対象に行った調査では、米国生まれの中国系米国人が米国の情報機関に就職することは許されるべきかどうかとの問いに、27%がより厳しくアクセスを制限すべきだと言い、14%がアクセスを禁ずべきだと答えた。これはあからさまな人種差別主義であり、余りに多くの米国人が、政治家どもの言説に惑わされて、中国政府と中国系の人々との間に敷かれるべき境界線が見えなくなっていることを示す。
▼中国は恐るべき地政学的なライバルである。しかし、ニンニクや個人教授システムが米国の国家安全保障上に有意の脅威を及ぼすようなことなどあり得ない。そんな言い方をすれば、我々の政策議論が真面目さを欠くものであることを曝け出すことになるばかりでなく、アジアの〔数千年の歴史的文化的な〕遺産を引き継ぐ〔中国系の〕人々に対し安全でない環境で生きることを強要することにもなる。もし米国が中国と適正な競争をしようとするなら、核心的な米国的価値観を損なうことなく米国の国家安全保障を守るような、健康でバランスのとれた政策形成を目指すべきだろう。
▼さあ、皆さん、深呼吸を。
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