7月1日、国内で計画されていたクーデターを阻止したと発表したウクライナ保安局。ロシアからの軍事侵攻を受ける中で発覚したこの事態は、一体何を意味しているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、クーデター未遂を引き起こしたウクライナ国内の「分裂のもと」を分析するとともに、プーチン大統領の次なる狙いを予測。さらに中国やロシア、トルコが絡む上海協力機構が国際社会に与える影響について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:戦争の連鎖が生み出す分断の加速とドミノ倒しの危険性
止めようのない戦争の連鎖。分断の加速にあまりに無力な国際社会
ロシアによる一方的なウクライナへの侵攻によって始まった“戦争”においては、ロシアサイドの目的は、微調整はあったようですが、基本的には不変と思われます。
その目的に私としては同意できませんが、長年にわたるやり取りから私なりに理解している内容としては「ロシア政府(プーチン大統領)の方針に公然と異を唱え、ロシアが最も嫌がる欧米勢力の東進を嬉々として進めたゼレンスキー大統領とその政権の排除」「ロシアにシンパシーを抱くウクライナ東部・南部のウクライナからの切り離しと、ロシアへの“再”編入によるロシア勢力の再結集」「NATOおよび欧米勢力をロシアの(旧ソ連の)勢力圏から追い出すこと。そのためにロシアに背を向けた旧ソ連共和国の打倒のための足掛かりをウクライナに作ること」などが、ロシアが抱いている“達成目標”と思われます。
ウクライナ全土の物理的な支配を念頭に戦闘を実施しているのではなく、ゼレンスキー大統領を引き摺り下ろし、親ロシア政権(ロシアの傀儡とまでは言わないとしても)を作り上げ、親ロシアの新しいウクライナを起点として、ロシアの勢力圏の拡大と“ソ連”の再興、そしてNATOおよび親欧米勢力の勢力圏からの排除が目的のようです。
ウクライナにおいては、ゼレンスキー大統領とその政権の転覆のみならず、ウクライナをそれぞれの宗教・民族的なバックグラウンドを基盤に3分割することも計画の一環にあるようです。
以前にもお話ししたように、ウクライナ西部はポーランドに接しており、民族的にもポーランド系が多く、また宗教もカトリックが大多数を占めています。大都市のリビウなどには、ロシアによる侵攻後しばらくはロシアのミサイルが飛んでくることもありましたが、最近はそれもなく、比較的、ウクライナ西部地域は落ち着いた情勢下にあるとされています。また、あまり報じられませんが、ウクライナ国民の中でも“避難を必要としない”グループであり、海外に避難した人たちも、皮肉な表現をしますと、“これを機にちょっとバカンスへ”といった感覚の人たちもいると噂で聞くことがあるほど、私たちが聞いているウクライナ人の“現状”とのギャップがあり、実はその“ギャップ”は他のウクライナ国民も感じている内容であり、国内での分裂の“もと”になっていると言われています。
“ウクライナ”といえば、キーウが位置するウクライナ中央部を指すという意見もありますが、ここは“ウクライナ人”であり、ロシア正教会とその正統性を争い続けているウクライナ正教会がマジョリティを占めるエリアで、ロシアサイドの話を聞く限りは“この中央部のみを切り離す”ことも獲得目標の一つのようです。
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