隣国の歴史に学ぼうという冷静さが皆無だったフランス人
イギリスではフランス革命から140年さかのぼる1649年、ピューリタン革命が起きた。
鉄騎隊を率いて国王軍・スコットランド軍を打倒したオリヴァー・クロムウェルは国王チャールズ1世を処刑して王制を打倒。イギリスは共和制となった。
しかし革命の英雄として権力を握ったクロムウェルは、次第に独裁的な政治を行うようになり、ついには軍事独裁体制を作りあげ、共和政は実質的には棚上げにされ、反発が強まっていった。
そしてクロムウェルの死後に王政復古の新体制が作られ、共和政はわずか10年で終了した。
だが王政が復活すると、ジェームズ2世の専制政治が国内外に反発を生み、1688年、名誉革命が起こる。
イングランド議会と結託したオランダ総督ウィレムが率いるオランダ軍がイングランドに進軍。ジェームズ2世は海外逃亡し、議会は王位の空座を宣言、オランダ総督ウィレムをウィリアム3世とし、その妻メアリ2世と共に君主としたのである。
そして議会は「権利章典」を定め、これにより国王も憲法によって権利が制限される「立憲君主制」の基礎がつくられたのだった。
このような歴史を熟知していたからこそ、バークはフランス革命に反対したのだろうし、フランス人にも隣国の歴史に学ぼうという冷静さがわずかでもあれば、少しは違った歴史になっていたかもしれない。
歴史の知恵や伝統とは、ワインのように熟成されていくものである。
ワインは醸造された時点で完成というわけではない。樽やボトルの中で熟成される。熟成とは「変化」である。ワインは一定のところで固定された、不変のものではない。常に変化し続けているのだ。
ところが、こういう認識が日本の自称保守・馬鹿保守には全くない。
自称保守は、伝統といったら永久不変で、絶対に何ひとつ変えてはならないものだと思い込んでいる。これはワインで言えば、樽詰めされた瞬間のワインが完成品であって、熟成されたものはワインじゃないと言っているようなものである。
「先例」は「掟」であり、天皇であろうと一切変えてはいけないのダー!!などと叫ぶような考えは、保守でも何でもない。何ひとつモノを知らない、無知蒙昧の野蛮人だというだけのことである。
ワインには「何年もの」といって価値の出るものがあるが、何年間熟成したら出来上がりと決まっているわけではない。その時のブドウの果実や種、果皮の質によっても違ってくる。
歴史の知恵も同様に熟成していくもので、何年経過したら出来上がりと決まっているわけではない。
わしは「SPA!(7月2日号)」に掲載した『ゴーマニズム宣言』で、「キリスト教だって、誕生した時はカルトみたいなものだったともいわれる。今でもカルト性は残っているようにも思うのだが、それでもキリスト教は誕生してから2,000年を経過している」と描いた。
つまり、キリスト教は2,000年かけて熟成され、そこに歴史の知恵といえるものも生まれているということである。
人間の「理性」を信じるという235年前のフランス革命に始まった思想にしても、わしにはカルトにしか見えないのだが、それをずっと熟成させていき、さらに100年、200年、300年とかけていけば、そこに変化が生じて、何らかの知恵が生まれてくるかもしれない。
ところがリベラルの人の中にはフランス革命を絶対視してしまって、フランス革命こそが原点であり、行き詰ったらフランス革命に戻ればいいとか言い出す者までいる。
それは要するに、時代による変化を一切認めないということであり、それではリベラルといっても、日本の自称保守と思考が何も変わらないことになってしまう。
問題となるのは、フランス革命が生んだ理性主義や人権思想、そこから発生した民主主義というものが、これから長い時間を経ていくうちに、歴史の知恵といえるものになるまで熟成されていくかどうかということである。
正直にいえば、それは──
――(メルマガ『小林よしのりライジング』2024年7月31日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上、7月分のバックナンバーをお求め下さい)
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