拡大と成長は、まったく違う。会社拡大戦略で大きく失敗した2つの事例

 

【失敗事例1】

あるキャンプ用品メーカーがありました。この会社はキャンプブームに乗り、2017年までの年商3000万円水準から大きく飛躍し、2021年には年商2億円、2022年には2億8千万円を突破しました。「めざせ5億!」が合言葉でした。

利益も出て、2021年は営業利益2000万円超、2022年には営業利益2500万円超を計上。銀行も融資に積極的で、2021年から2022年の間に2億円のニューマネーを借り入れました。

しかし、「一過性のブーム」であるという自覚が無かったのでしょう、この会社は、ある工場を数千万円で買収して、自社工場を立ち上げました。本社ビルも大きく拡げ、内装や事務機器を全て一新。従業員も、自社工場の職人から本社の受付嬢まで増員し、年商3億足らずの事業規模なのに、総勢30名を超えました。

こうなると、固定費の負担だけでも大変な金額になります。

経営に陰りが見えてきたのは、2022年暮れ頃からでした。キャンプブームはまだ続いていましたが、リサイクルショップにキャンプ用品が溢れ、競合先も増え、思うように売れなくなってきたのです。

2023年の売上は伸び悩み、2億円にとどまりました。こうなると、過大な設備投資が裏目に出てしまいます。多額の経費がかかっている為、5000万円を超える営業赤字となりました。とりわけ、人件費、社会保険料、家賃、消費税の負担が重く、たちまち資金が枯渇していきました。

私はこの会社から相談を受けたことはありません。社長さんとも面識はありません。なので詳細はわかりませんが、昨年から資金ショートを起こし、あらゆる支払が遅延しているようです。

【失敗事例2】

無計画・放漫経営による失敗事例です。

この会社の社長さんは資本金1億円を集めて、10年ほど前に起業しました。ビジネスモデルそのものは将来性があり(広い意味でIT系)、実際、初年度から年商3億円を超え、5年後には8億円に達し、税引後当期純利益も5千万円を叩き出し、毎年、千万単位の法人税を払っていました。

しかし、この会社はさまざまな問題を内包していました。

まず社長。年間の交際費は2000万円近くに達し、そのほとんどを社長が使っていました。会社名義で車両が10台ほどありましたが、その中の3台は社長の車で、中にはイタリアのスポーツカーなども並んでいました。保養所や社宅もあり、これらの多くは社長が私物化していました。(後に、税務調査が入り、スポーツカーと社宅が否認されました・・・)

社内のマネジメントも悪く、1年以内に従業員が離職する率は4割以上にのぼりました。

こうなると、商品の「質」が低下するのは時間の問題です。案の定、質の低下に伴い、売上の伸びにも陰りが見え始めてきました。

設立7年目になると、悪循環からどうにも脱却できなくなってきました。

・従業員の定着率は低い。その分、採用コストがかかる。

・売上が伸び悩んでいるから、広告宣伝費を増やし、値段も下げないと売れない。

・必然的に、薄利多売、いや、赤字体質に陥る。

・社長が社宅やスポーツかーなど私物化しているので、銀行は社長に個人保証を求めてくる。(しかも思うように借入できない)

・税務調査で追徴課税をくらい、これを一括で納付できなかったので、ますます銀行借入ができなくなる。しまいには税務署から差押予告が来た。

・資金ショート。ここでやっと、役員報酬カット。交際費カット。スポーツカーと社宅を売却。

・しかしそれでも追い付かず、銀行にはリスケを求め、年金機構と税務署には換価の猶予を申請。

・従業員からは愛想を尽かされて、良い商品は生まれてこない。

拡大すると、自分が大きくなったと勘違いしたり、増収増益がいつまでも続くと勘違いしたり、何かと勘違いしやすいものです。その点、特に気をつけてください。

拡大と成長は違います。

image by: Shutterstock.com

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事業再生コンサルタント。認定事業再生士(CTP)。特に倒産寸前の中小企業、零細企業、自営業の自力再生(のサポート)を最も得意としています。著書『震災後に倒産しない法』(サンマーク出版)、『借金なんかで死ぬな!』(朝日新聞出版)、『連帯保証人 なってみたらすごかった でもまだ手はある』(ワニブックスPLUS新書)、『ブラックリストなんて怖くない』(宝島社)、『働けません。』(三五館)ほか多数。1968年東京生。乙女座A型。趣味は自転車、魚釣り等。無類のネコ好き。

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