自民総裁選からの“変節”ぶりを批判されてきた石破茂首相が、衆院選での“裏金議員”非公認をあらためて打ち出した。だが国民の反応は冷ややかだ。党内圧力と世論との間で揺れ動く、頼りない首相と映るのかもしれない。他方、麻生名誉顧問は引退説もどこ吹く風で“やる気”をみなぎらせている。近い将来の「石破おろし」をめざす麻生・高市連合は、早くも仲間作りの“飲み会”に動きはじめた。元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:麻生・高市連合が倒閣準備。石破首相は裏金議員追放で鎮圧できるか
麻生太郎氏にみなぎる、ある種の“やる気”
自民党最高顧問、麻生太郎氏はカンカンに怒っているという。巷に流れていた引退説など吹き飛ばし、ある種の“やる気”がみなぎっているようなのだ。事実、10月9日に衆議院が解散されたが、麻生氏が総選挙に立候補しないという話は伝わってきていない。
副総裁から、最高顧問という急ごしらえの名誉職へ。この異動は仕方がない。総裁選で支援した高市早苗氏が決選投票で敗退したのだから。
しかし、首相の座に就いたのが、嫌いでたまらない石破茂氏というのは、さぞかし気分が悪いだろう。なにより麻生氏が納得しがたいのは、総裁選における岸田文雄前首相の行動だ。麻生氏がともに高市氏を支援しないかと持ちかけたのに耳を貸さず、決選投票で岸田派の票を石破氏に集めた。その結果、この3年間にわたって岸田政権を支えてきた麻生氏を押しのけ、岸田氏自らキングメーカーになったのだ。
岸田の作った石破政権をぶっ潰してやる。そういうたぐいの“やる気”だ。党の新執行部が発足した9月30日に臨時総務会が開かれ、石破総裁や党役員が写真撮影をしたが、麻生氏だけはその場を立ち去った。
自分のために新設された最高顧問というポストが、党役員といえるのかという“僻み”があったかもしれない。だが、はっきり言って、石破新総裁に対して無礼な態度だ。麻生氏が“挑戦状”をたたきつけた瞬間といえるかもしれない。
「だから高市、半年くらい飲み会に行け」
麻生氏は特段、高市氏に目をかけていたわけではない。どうすれば“勝ち馬”に乗ってキングメーカーとして君臨し続けられるかを考えた結果、石破氏に勝てる可能性のある高市氏を選び、麻生派の票を流しただけのことだ。
高市氏は惜しくも敗れたが、麻生氏との同盟関係のようなものが生まれた。それを物語る事実がある。総裁選直後のことだ。高市氏は陣営での報告会を終え、麻生氏のもとを訪ねた。そのさい、麻生氏は以下のように高市氏に助言したといわれる。
「自民党の歴史の中で3年以上総理を務めた例は7人しかいねえ。俺も菅も1年で終わった。石破はもっと短いかもしれねえ。だから高市、用意しとけ。議員は仲間作りが大事だから、これから半年くらい飲み会に行け」(TBSテレビ)
半年もしたら、「倒閣」のチャンスがくるから、次の総理・総裁をめざして準備しておくよう、そのように言っている。はやくも「石破おろし」に向けた麻生・高市連合が誕生したと考えていいのかもしれない。
選挙で負けては意味がない。ハラを決めた石破首相
石破政権は、麻生氏の観測通り短命なのだろうか。もちろん、すべては総選挙の結果しだいである。かりに自民党が大勝すれば、石破首相の求心力が高まる。単独過半数割れ、もしくは自公過半数割れなどの惨敗を喫し、「倒閣」に大義名分を与える情勢になれば、一気に反乱機運が高まるだろう。
不穏な党内情勢のなかで、石破首相が打ち出したのが、いわゆる“裏金議員”の非公認だ。下村博文、西村康稔、高木毅、萩生田光一といった安倍派幹部ら12人は非公認。安倍派が大半を占める53人の裏金議員のうち32人は公認するが、比例区での重複立候補をさせない。そんな内容だ。
総裁選の出馬表明会見で、石破首相は裏金議員の公認問題について、こう語っていた。
「公認するにふさわしいかどうか、我が自由民主党として国民にお願いするに足るかどうか、そういう基準は厳格に定めて、やっていくべきものだ」
ところが総理・総裁になって風向きがガラリと変った。厳格な基準どころか、裏金議員も原則として公認する方向だとメディアで伝えられた。厳格にすれば、裏金議員の多い安倍派から総スカンを食らい、党運営に影響が出る。「党内融和」をはかるために任命した森山裕幹事長にそう説かれると、石破首相は反論できなかった。
党内人気に乏しい石破首相が総裁選の決選投票で、多くの国会議員票を集められたのは、岸田文雄前首相や菅義偉元首相、そして、その周辺で暗躍した森山幹事長のおかげだ。彼らへの恩義が石破首相をしばっていた。
しかし案の定、裏金議員に対する甘い姿勢は世間の反発を呼んだ。党の情勢調査でもその影響らしきものが数字にあらわれ、このままでは総選挙で惨敗すると予想された。
党内融和を重視するあまり選挙で負けては意味がない。石破首相はハラを決めた。森山幹事長と小泉進次郎選対委員長らに裏金議員の公認問題について方針を転換し、対応策を練るよう命じた。森山氏らは厳しい順番にいくつかの選択肢を提示したが、その中から石破首相が選んだのは最も厳しい措置だった。
安倍派に一定の打撃も、「甘さ」が目立つ石破首相
ただし、かつて小泉純一郎首相(当時)がいわゆる郵政選挙でやったように、裏金議員に「刺客」を立てるということはない。その意味ではまだ「甘さ」が残る。選挙に滅法強い人にとっては、さほどの影響はないかもしれない。野党からは「大半は公認されるではないか」(立憲民主党・野田佳彦代表)との声も出るほどだ。
それでも、すでに分裂状態にある安倍派に、さらなる打撃を与えるのは確かだろう。石破首相の胸中には、高市氏を支持する勢力を追放し、政権の安定をはかりたいという思惑があるかもしれない。これに対して、安倍派からは「二重の処分を受けるのは不条理」などと反発の声が広がっているようだ。
しかも、一部裏金議員の非公認方針が、いまのところ国民から拍手喝さいを浴びている雰囲気はない。むしろ、国民の側から見れば、岸田前首相と同じで、党内の圧力と世論との間で揺れ動く頼りない首相としか映っていないのかもしれない。後手に回った感も否めない。
ちょっと変わり者で付き合いが悪いが、その分、独自の見識がある。信念もある。なのに、政権トップに立ったとたんにブレはじめる。良くも悪くも、人に配慮する“好い人”だからなのか。10月4日、衆議院本会議場での所信表明演説の後、廊下に出てきた石破茂首相。
取り巻きの人たちのなかに紛れ込んだ立憲民主党代表代行、辻元清美氏が声をかけた。「予算委員会の質問つくっていたのに私。残念だわ」
石破首相はフレンドリーに返答する。「ほぉー。で、どうしたのどうしたの?立ったの?」
予算委員会を開かずに衆院解散をすることへの柔らかな攻撃に対し、おとぼけで応じる。なんだか珍妙なやり取りだが、辻元氏はかまわずタメ口で続ける。「いや立つよ。だから石破さんが予算委員会やってくれたら立つよ」
石破首相「ああ、そうなんだ。ごめんね」
報道のカメラがまわっていても、威厳を取り繕うことはない。あけすけというか無防備というか。
「党内融和よりも国民の共感」を石破首相は実行できるか
その3日前、首相に指名された後のあいさつ回りで、維新の会派を訪れたさいも、石破首相ならではのやりとりがあった。
前原誠司氏「石破カラーを発揮して頑張ってください」
石破首相「石破カラーを出すと国民は喜ぶが、自民党からは怒られる」
前原氏「本音を言わないように」
仲の良い議員を相手に気が緩むのはよくわかるが、総理ともなると、人が好いでは済まされない。
党が何と言おうが、「日米地位協定の改定」「選択的夫婦別姓の導入」など総裁選で発言していた通りの政策を所信表明演説に盛り込んでおれば、もっと支持率は高く出ただろう。50%そこそこというのは、新首相誕生直後の“ご祝儀相場”にしては歴代でも最低に近い。
いくら小手先で「党内融和」をはかっても、今の情勢では効果は薄い。麻生・高市連合は総選挙後、牙をむいてくるだろう。
攻撃を防ぐ手立ては、世論を味方につける政策を推し進めるしかない。自民党という狭い世界だけを見ていても、自民党を再生させることなどできない。
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image by: 安倍晋三Facebook | 高市早苗Instagram