すでに見直しの限界点を遥かに超えているゼレンスキーの作戦
ウクライナがロシアによる侵略という暴挙に立ち向かう姿を見せた当初は、ウクライナの後ろ盾として存在した欧米諸国は一斉に熱狂し、「ロシアの暴挙から民主主義を守るため」という崇高な目的を掲げて民衆の支持を得て、圧倒的な支援をウクライナに授けましたが、それがロシア軍によるウクライナ国内における蹂躙を止めることはなく、戦争が長引くにつれ、一般市民の犠牲が増え続け、かつ生きるために必要なインフラもことごとく破壊されるという事態に陥り、ロシアとの戦争継続の有無にかかわらず、ウクライナの国民は生存の危機に瀕していると言えます。
そのような中、まだアメリカのバイデン政権のレガシーづくりのための口実に乗せられ、「ウクライナは必ずロシアに勝つ」と高らかに叫び、ウクライナ国民をロシア軍の前に晒し続けるゼレンスキー大統領の作戦は、すでに見直しの限界点を遥かに超えているように思います。
私は仕事柄、停戦協議を早期に開催することを勧めたいのですが、現状ではロシアの言いなりになるか、またはアメリカ政府に背後から操られ、“ウクライナ”の声が反映されない事態に陥ることが目に見えているので(実際に以前、ウクライナ問題を話し合うはずなのに、それが米ロの間で水面下で行われ、そこにはゼレンスキー大統領は呼ばれなかったという先例があります)、現時点では積極的に進めることが出来ません。
ではどうするべきなのでしょうか?
「我々はロシアに屈せず勝利する」というスローガンを、民衆を鼓舞するために連呼することは無駄ではないと考えますが、明らかに戦況が劣勢になっていることが明らかになってきている今、あえてメンツもプライドも一旦かなぐり捨てて、「このままでは負けてしまうし、実際に今、ロシアの脅威に押されている。どうかウクライナを助けてほしい」というように、欧米諸国とその仲間たちからの支援の増加と継続を懇願するモードに変え、欧米諸国が乗り越えられない支援拡大と継続を躊躇する心理的な壁を越えさせるための戦略転換が必要ではないかと感じます。
また、どうしても「ゼレンスキー大統領もやっぱり権力の座にしがみつくために、民衆を犠牲にしているのだ」という反対派からの非難をうけてしまう状況下にありますが、それを大統領権限を用いて罷免したり端に追いやったりする代わりに、「今は戦争中であるがゆえに指揮官として留まるが、戦争終結後にはウクライナ国民の前に出でて、信を問う」と高らかに宣言して、ウクライナを守ることに専念する姿を見せるのも良いかと思います。
そうすることでウクライナの後ろ盾となる国々からの支援のストリームが回復し、少なくとも軍事的にはロシアに対応しうる力を得ることが出来るようになると思われますが、そのためには、プライドを捨ててみることと、欧米諸国内の反対派が声高に叫ぶ兵器管理に対しての全面的な責任を負うことを約束することが大事だと思われます。
現時点では、アメリカ大統領選挙に絡む米国内の政治論争と、欧州各国で高まる極右の勢力拡大の波に押されて、必要な支援を獲得することがウクライナにはできなくなっています。「勝つため」ではなく、「ウクライナが無くならないため」というように損失の可能性を前面に出して支援を求め、そのためにはプライドなどかなぐり捨てるという姿勢を見せることが大事だと感じています。
結果はどうなるかわかりませんが、2年半近く継続し、今では劣勢色が強まりつつも、戦況は停滞している行き詰まり感が高まっている中、新しい状況を生み出すためのブレークスルーにはなるのではないかと考えます。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年10月11日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録ください)
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