安倍氏は嘘をついていたのか?一時帰国の拉致被害者を「北朝鮮に戻さない」と決断した人物の名前

 

安倍氏とテレビ朝日の化粧室で交わした会話の全貌

さて、「拉致」問題もまた安倍がさんざん弄び、結局のところ何一つ前進させることができないまま投げ出した、悪しき遺産の1つである。

2002年9月に小泉純一郎首相が訪朝し金正日国防委員長との間で「平壌宣言」を発し、すぐに5人の拉致被害者の一時帰国が実現したが、安倍官房副長官の主導で日本政府が「5人を北に戻さない」と決断、日朝交渉は断絶した。反北朝鮮・右翼勢力がこれを「断固たる強硬態度」と絶賛し、安倍はたちまち「英雄」に祭り上げられ、それが彼の出世の第一歩となった。

その直後の02年11月17日にTV朝日「サンデー・プロジェクト」に安倍が出演し、その問題が議論になった。あの番組は、田原総一朗さんの独裁的空間で、私は番組中で口を挟む機会がなかったが、終了後にたまたま安倍と化粧室で一緒になったので、鏡の前でドーランを落としながら次のような会話を交わした。

高野 「だけど安倍さん、これでは北朝鮮は『2週間で北に戻す』という約束を日本側が一方的に破ったと怒って、今後の対話が継続できなくなるでしょう。拉致被害者本人やその家族、支援者が『もう北には戻さない』『戻したら二度と日本に帰国できなくなる』と思う気持ちは理解できるが、それに政治家が同化してしまうのはマズくて、『お気持ちは分かるが、外交というのは相手のあることなので、ここは我々にお任せ下さい』と一旦引き取らなければいけなかったのではないか」

安倍 「それでどうしろと言うんだ」

高野 「例えば、5人は約束通り一旦平壌に戻すけれども、それに安倍さんが同行して自ら“人質”となって向こうに滞在し、その間に5人はそれぞれ家族会議を開いて、例えば子供たちはこのまま北の大学を出て北の人間として生きるのか、それとも親と共に見知らぬ日本に行って暮らすのか、相談する。あるいは夫とは離婚するのか一緒に北を出るのかどうかも、ゆっくり話し合わなければならない。何しろ、そのまま日本に住んで戻ってこないというつもりで本人は出てきていないし家族もそう思っていないわけだからね。それで、すぐに結論が出せる人がいれば、安倍さんが連れて帰ってくる。そうでない人は、時間をかけて考えるという人の場合は、その話し合いの結論を北当局が必ず尊重するよう安倍さんが確約させる。そうすれば、安倍さんは本当のヒーローになって、日朝交渉も繋がったでしょうに」

安倍 「しかし、彼らは信用できない」

高野 「だからこそ、安倍さんが命懸けで乗り込むんじゃないですか。そうやって外交力を発揮して丁寧に日朝のパイプを繋いでおけば、他の8人の方々も本当に亡くなったのか、亡くなったとしてどんな状況で亡くなったのか、その証拠や遺品はないのかとかの調査も継続できたろうし、またその8人以外には本当に誰もいないのかといたフォローも出来たでしょう」

安倍 「フン!」

これで私は、はっきり言ってこの人は余り頭が良くないなと思った。政治家は複雑な連立方程式を解かなければならない仕事で、頭が単線回路では務まらないのだが、彼のように簡単に被害者やその家族などの心情に同化してしまい、それを彼らに「寄り添う」ことだと勘違いしてしまうようでは、結果的に彼らを裏切るっことになりはしないかと懸念した。その通りになってしまった。

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