トランプ×イーロン・マスク連合に逆風か?アメリカ保険会社CEO射殺事件がもたらした「思いもよらぬ事態」

 

多数の保険請求を拒否したエラー率90%の欠陥AI

一方、ユナイテッドヘルスケアは、AIシステム「nH Predict」を使用して保険請求を拒否していたとされる(*14)。しかし同社が使用していたAIシステムに関して、重大な問題が指摘。この点についてもアメリカの医療保険制度の問題点を表出させた。

同社が使用していたAIシステムには、エラー率が90%に達する可能性があると指摘(*15)。他にも、患者の併存疾患や入院中に発症した病気など、多くの関連要因を考慮していない(*16)との指摘や既存のプランでは100日間のケアを受けられるはずのものを、最大でも14日の保障で十分と結論づけるなど、非常に厳しい推定を行っていたとのこと(*17)。

昨年11月、ユナイテッドヘルスグループに対して集団訴訟が提起。訴訟の原告は、被保険者全員が不服を申し立てた場合、その90%以上が認められるはずだと主張(*18)。「ユナイテッドヘルスはAIが明らかに不正確な値を打ち出していることを理解しておくべきだった」との批判が巻き起こった(*19)。

欠陥AIが使用された背景には、2020年にユナイテッドヘルスがNaviHealthを買収して以降、患者へのケア提供期間を可能な限り短くすることが重視されるようになり、病気やケガの発生後のケアを早期に行うことに重点が置かれるようになったとのこと(*20)。

「トランプ×イーロン・マスク連合に逆風」という思わぬ事態

今後、事態を思わぬ方向に進む可能性もある。

11月に再選されたドナルド・トランプ政権が進めると見られる予算削減政策では、特にメディケア(高齢者向け医療保険)や退役軍人向け医療サービスへの影響が予想されており、保険金請求の却下がさらに増加する可能性が指摘されている。

トランプ政権は過去にも医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃や弱体化を試みており、医療関連予算の削減が進められる可能性が(*21)。

また民間警備会社のCEOによると、企業やその幹部が政治活動家の標的になっているケースが増えており、特に気候変動や中東の紛争といった問題が影響を与えているという。これにより、企業は幹部の安全を確保するために多額の費用をかけてボディーガードを雇う傾向が強まっている。

事実、メタ(Meta)社は2023年にマーク・ザッカーバーグ氏の警護に2,340万ドルを支出し、Googleもサンダー・ピチャイ氏のために680万ドルを費やした。

ドナルド・トランプの親衛隊と化したイーロン・マスクのボディーガード体制も、近年大幅に強化。マスクは最大20人のボディーガードと医療専門家を伴って移動しているとのこと。

全米に思わぬ熱狂を持たした射殺事件は、しかし次期トランプ政権×イーロン・マスク連合に逆風をもたらしかねない。

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引用・参考文献

(*1)Jonathan Dienst, Kai Ma and Phil Helsel「Suspect in CEO’s killing wasn’t insured by UnitedHealthcare, company says」NBC NEWS 12月13日

(*2)川島実佳「保険CEO射殺事件に見る『アメリカ保険制度』の闇」NewSphere 2024年12月16日

(*3)Jonathan Dienst, Kai Ma and Phil Helse 2024年12月13日

(*4)「米CEO殺害の容疑者を起訴、保険会社に対する憤りあおった『テロ行為』」CNN.jp 2024年12月18日

(*5)CNN.jp 2024年12月18日

(*6)川島実佳 12月16日

(*7)CNN.jp 2024年12月18日

(*8)Yoko Nagasaka「アメリカ社会を毒する、保険会社CEO殺害容疑者ルイジ・マンジョーネのダークヒーロー化」esquire 2024年12月16日

(*9)Yoko Nagasak 2024年12月16日

(*10)川島実佳 12月16日

(*11)Jordan Hart,Geoff Weiss「【容疑者を逮捕】米保険会社CEO殺害事件で現場に残されたメッセージと『ある書籍』の関係は?」BUSINESS INSIDER 2024年12月10日

(*12)Jordan Hart,Geoff Weiss 2024年12月10日

(*13)Jordan Hart,Geoff Weiss 2024年12月10日

(*14)川島実佳 2024年12月16日

(*15)「保険会社がAIを使って医療保障を不当に拒否したとの訴訟が起こされる」GIGAZINE 2023年11月22日

(*16)GIGAZINE 2023年11月22日

(*17)GIGAZINE 2023年11月22日

(*18)GIGAZINE 2023年11月22日

(*19)GIGAZINE 2023年11月22日

(*20)GIGAZINE2023年11月22日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年12月21日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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