第1期政権と同じくアメリカ第一主義の推進を掲げ、就任初日から自国優先的な大統領令への署名を行い続けるトランプ氏。その外交政策についてはマイナス面を強調する意見が多く見られますが、国際情勢の見極めに長けた専門家はどう読むのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、さまざまな要素を勘案しつつ、第2期トランプ政権が国際社会にどのような状況をもたらすかについて考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:ついに来たトランプ2.0 ‐アメリカは国際秩序の再構築を成し遂げるのか?それとも非干渉・孤立主義のアメリカに戻るのか?
もたらすのは国際秩序の安定か完全破壊か。ついに来たトランプ2.0
「国際政治、世界は大国が牛耳るべきであり、その他の小さな国々はそれにただ従うべきだ」
先週号の冒頭でもご紹介したトランプ大統領が就任前から繰り返してきた独裁者のような発言は、就任早々繰り返され、それが大統領令の連発という形で、それまでの国際秩序の総見直しをスタートさせようという動きとして表出してきています。
気候変動問題に対する国際的な対応を規定するパリ協定から離脱することを宣言し、コロナ対策の陣頭指揮を執ってきたWHOには、トランプ前政権時の苦々しい経験も反映されているのか、同じく離脱・脱退を宣言して決別し、今後、国際機関とどう付き合うべきかについて総見直しをしようとしています。
就任演説でも、バイデン前大統領とハリス前副大統領の前で、前政権を徹底的に非難し、これまでの政策を全否定する姿勢を明確に打ち出したトランプ大統領の姿は、有権者に向けた政治的なパフォーマンスと見ることも可能ですが、デンマーク領グリーンランドの購入やパナマ運河の返還といった無茶苦茶な要求と同じく、どの程度まじめに捉え、対応策を練るべきかという大きな問いが、国際社会に突き付けられています。
就任直後からいろいろと物議を醸しだしているトランプ政権ですが、面白いのは政権の目玉のはずの“関税”の即時実施を見送り、対メキシコ・カナダには25%、中国には最高60%の関税を発動すると言いつつも、その実行時期については“政権として”明言していません。記者から問われて「2月1日にカナダとメキシコに対して発動」と咄嗟に回答したものの、政権内では「早くとも4月1日付」という認識が広がっていたらしく、すでに発言内容と実施の不一致が生じています。
また「就任から半年以内に停戦を実現する」と言い直したロシア・ウクライナ戦争の停戦協議開始に向けて、トランプ大統領がロシアのプーチン大統領に突き付けたのも“関税措置”であるのは、個人的には意外でかつ面白い展開だと見ています(紛争調停・仲介に関税を結びつけたか…へー、という感じです)。
当のプーチン大統領は繰り返し「ロシアはアメリカからの呼びかけに応じ、いつでも協議のテーブルにつく用意がある」と発言していますし、トランプ大統領も「近日中にプーチン大統領と直接話す」と明言し、近々事態が動きそうな予感がしますが、実際には早くも米ロ間でのジャブの撃ち合いが始まっています。
先ほど触れた“対ロ関税措置”や“対ロ追加制裁の発動”などはアメリカ・トランプ大統領からのジャブですが、それを受けるプーチン大統領は笑顔でそれを交わしつつ、「協議のテーブルにはいつでもつく用意があるが、ロシアとしては停戦のための条件を緩めることはない」という固い意志を持ったジャブを打ち返している状況です。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ