「ウクライナが重要」というわけではないトランプ
それを眺めながら「自分の知らないところで自国の運命が決められかねない」と焦っているのが、ウクライナのゼレンスキー大統領です。
今週はダボス会議に赴き、各国リーダーやビジネスのリーダーたちにウクライナに対する支援の継続と拡大を訴えかけていますが、その内容があまりにも無茶ぶりに思える内容であるため、その要請をまともに捉える者はいないという状況に陥っているようです。
交渉戦略的には、典型的なBargaining戦略だと思われますが、ロシア・ウクライナ戦争の停戦の落としどころが“緩衝地帯の設置”になると踏んでその緩衝地帯に欧州から(できればアメリカも)最低20万人の部隊の常時駐留を求めるというものになっていますが、欧州各国はまともに捉えておらず、「数万人単位の駐留は何とか検討できるが、それ以上となると…」という反応を見せて、コミットメントを約束しないという事態になっています。
欧州各国も「トランプ大統領はいろいろと決めても、後始末は欧州各国に押し付ける」と踏んでおり、非常にfragileかつhostileな国内世論と欧州経済のスランプに直面し、何の約束もしないという状況が続いています。
何とか欧米諸国の注意を惹こうとウクライナが差しだしたのは、これまで強く求めてきたNATOへの加盟というカードで、加盟交渉をしばらく凍結することと引き換えに、NATO各国から常駐の平和維持軍を派遣することを求めていますが、欧州各国は相手にしていないのが現状のようです。
トランプ大統領は「ゼレンスキー大統領とはすでにいろいろと話している」と気に掛けるそぶりは見せるものの、同時に「これからはプーチン大統領と直接話す時だ」とすでにフォーカスをプーチン大統領との直接協議に移しており、焦りのままに過大な要求を突き付けるゼレンスキー大統領をもう相手にしていないという分析も多く存在します。
トランプ大統領にとっては、ウクライナが重要というわけではなく、あくまでもこの紛争を公言通りに停戦に持ち込むことにはるかに大きな重心が置かれており、そのためにはプーチン大統領と話したうえで、プーチン大統領から出される条件をベースに、角を落として内容を若干丸めつつ、プーチン大統領とロシアが交渉の席に就き、“約束通りに”戦闘を停止するのであれば、ロシアが提示する条件を概ね受け入れて、その上で停戦の実現を自らのレガシーとしてアピールするのではないかと考えます。
ではどのような“条件”が考えられるでしょうか?
主だったものでは【ロシアがすでに一方的に併合・編入したウクライナ東南部4州およびクリミアの実効支配を認める】ことや、【ウクライナのNATO加盟交渉の無期限凍結】、そして停戦合意の実施と引き換えに【対ロ経済制裁の解除】などが含まれる可能性があります。
ただ、これをそのまま受け入れるとトランプ大統領としてもメンツが立たない可能性が高いので、プーチン大統領は代わりに【(いやいやではあるが…)国際的な部隊による平和維持活動と部隊の駐留に合意する】というカードを切るかもしれません。
この場合、大きな条件が付けられるのが【国際部隊による駐留】ということであり、これはゼレンスキー大統領や欧州各国が考える“欧州各国の部隊の駐留”という内容ではありません。イメージとしては、他の紛争における国連平和維持軍のようなもので、多国籍軍によって構成される中立の平和維持部隊というものかと考えます。
仮に妥協しても、欧州各国の部隊を受け入れる代わりに、ロシア側の要請として中国やイラン、ベラルーシ、そして比較的ロシア寄りと考えられるグローバルサウスの国々の部隊の駐留を受け入れさせることを強く推すことになると思われます。そしてバランサーとしてトルコを招き入れるか否かは不明ですが、エルドアン大統領は意欲を示していると聞きます。
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