トランプやプーチンが全面に押し出す「共通する」手法
これが考えうる落としどころの一例だと考えられますが、今週、いろいろな国の人たちと話した際、「停戦がうまくいくかどうかを決めるのは、ゼレンスキー大統領がこれ(敗北)を受け入れることができるかどうかという点かと思う」という意見が多数聞かれました。
一瞬「なるほど」と頷きかけたのですが、これ、ロジックが完全に崩れていないでしょうか。
彼らの主張では「彼(ゼレンスキー大統領)はこの敗北の責任と多くの国民の命を犠牲にした責任を取るべき」という非常に乱暴な見解が示されているのですが、これは根本からおかしな話で、そもそも国際的な取り決めに反して、核保有国であるロシアが隣国に力を行使して侵攻したという“ことの発端”を棚に上げているように思えて、とても危険な状況に私たちは気づかずに陥っているのではないかと懸念します。
ただそれがベストな解決策であるかのように感じさせる“行動心理”が、トランプ政権の再登場によって、無意識のうちに私たちの考えに影響しているのであれば、これこそが大きな危機ではないかと考えます。
その心理の担い手が、ロシアのプーチン大統領であり、トランプ大統領ではないかと思いますが、共通しているのは“いじめっ子外交”と“恐喝による(脅しによる)外交”を前面に打ち出していることでしょう。
トランプ大統領が連発する関税措置の脅しや国境の閉鎖、移民の強制送還、パナマ運河の返還を求めること、そしてグリーンランドを米国領にするという領土拡大の野心などは、明らかに恐怖と脅しを梃子にアメリカの言うことを聞かせようとする外交姿勢です。そしてそれは皆さんお気づきの通り、プーチン大統領が得意とする手法でもあります。
そして強大な武力を盾に自国の言うことを聞かせる手法は、現在、イスラエルのネタニエフ首相が多用するものでもあると考えます。
トランプ政権誕生前日に、駆け込みの形でガザにおける戦闘の一時停止と人質解放についての合意が発効し、実際に人質の交換が行われ、すでに“トランプ大統領の影響力のおかげで事態が好転している”といったイメージ戦略が実施されていますが、その合意の発効ギリギリまでイスラエル軍はガザ北部に攻撃を続け、民間人の殺戮を行っていたことを決して忘れてはなりません。
圧倒的な力でねじ伏せ、再び立ち上がる気力を奪うことこそが、今、過去最高に極右に触れ、強硬策に訴えるネタニエフ首相が行っている作戦です。
そしてトランプ大統領が返り咲いたのを機に、ガザ情勢が収まったかのように見せ、ハッピーなムードを醸し出していますが、それと並行して、ネタニエフ首相とイスラエルの作戦は継続しており、ヨルダン川西岸地区に対する大規模な攻撃を開始し、すでに連立政権から離脱したはずの極右政党ユダヤの力の要求通りに、ユダヤ人入植を拡大すべく、軍事力を用いて、パレスチナ人の一般住民に攻撃を加えて支配地拡大を行っています。
その際、ネタニエフ首相はお決まりの「テロリストの壊滅に向けて必要な作戦」と攻撃を正当化していますが、実はこれ、トランプ大統領の無関心を逆手にとって強行しているのか、それともトランプ大統領から暗黙の了解を得てのことなのかは不明なものの、イスラエルは非常に危険な賭けに出ていると思われます。
ガザの停戦と人質の解放はアラブ諸国からも歓迎されていますが、そのポジティブな雰囲気を一気に冷ましているのが、このヨルダン川西岸への侵攻の強化です。
表立っての発言はないものの、サウジアラビア王国やUAE、そしてイランの高官は「この一連の攻撃は、イスラエルの本心を表しているものであり、イスラエルは国際社会の目がガザに向いている間に、実効的な支配を拡げようとしている」と激しく非難しています。
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