“イーロン・マスク大統領”のナチ賛美と反ユダヤ主義傾倒が世界にもたらす想定外。思想強めのリストラ屋に漂う危うさ

Paris,,France,-,June,16,,2023:,Elon,Musk,,Founder,,Ceo,
 

トランプ政権の政府効率化省(DOGE)トップに就任し、リストラの大ナタを振るいはじめたイーロン・マスク氏。ただ、近年のマスク氏はナチス賛美とも受け取られかねない言動が目立つ。米国にとって重要なユダヤ資本や、イスラエルとの関係悪化を招く恐れもありそうだ。9.11テロで世界貿易センター(WTC)から命からがら脱出した経験があり、米国の政治経済に明るいエコノミストの斎藤満氏が解説する。(メルマガ『マンさんの経済あらかると』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプ政権にイロン・リスク

プロフィール斎藤満さいとう・みつる
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

トランプ政権に「イロン(異論)・リスク」

民間人ながらトランプ政権で大きな影響力を持つイーロン・マスク氏。早速政府効率化省(DOGE)の共同トップとして活躍、連邦政府職員4万人を早期退職させました。一部メディアは「イーロン・マスク大統領」と揶揄するものまで見られます。

その一方でドイツの極右政党AfDを支持すると公言し、欧州首脳を無能者扱いして強い反発を呼んでいます。

欧州ではすでにテスラの販売が大きく落ち込んでいます。米国内でも選挙で選ばれていない民間人が出過ぎた行為をしていると「異論」がでて、トランプ政権の大きな「リスク」になるとの声が上がり始めています。トランプ政権の「イロン(異論)・リスク」をチェックしてみましょう。

欧州との対立増幅

トランプ大統領は貿易面でドイツの対米黒字が大きいこともあり、通商政策で欧州と対立しています。関税についても「米国にひどいことをしている」欧州には20%の関税案も聞かれます。その欧州との対立を、イーロン・マスク氏が増幅する可能性があります。

マスク氏は1月20日の大統領就任式で、「ハイル・ヒットラー!」を連想させるポーズをとり、物議をかもしました。欧州のテスラ工場には「ハイル・テスラ」と書かれ、ドイツやフランスでは今年1月、テスラ社の車の販売が大幅に減少しました。そして以前からドイツの極右政党、AfD(ドイツのための選択肢)を支持し、ナチスの子孫には「過去を引きずらなくてよい」と鼓舞しました。

トランプ氏もネオナチと言われますが、イーロン・マスク氏はこれをさらに増幅するようなナチス的な思想の持ち主で、欧州からすれば、トランプ氏のナチス志向がより増幅される印象を与えています。テスラ車の販売不振だけでなく、欧州と米国との間に政治的な溝が深まる影響を与えそうです。

関税についてはまだ不透明な点がありますが、トランプ大統領はNATOへの米国の関与を縮小し、欧州が自らの負担でNATO運営をするよう圧力をかけ、各国のNATOへの出資金増額と、自国の軍事予算拡大を求めています。欧州にはGDPの5%まで引き上げるよう圧力をかけています。欧州各国が簡単に受け入れられる水準ではありません。

イスラエルとの蜜月に冷水?

米国政府にとってユダヤ資本は重要な要素で、共和党、民主党を問わずユダヤ尊重の機運があり、イスラエルに対しては何があっても米国が支援する立場を貫いています。その中でもトランプ大統領は、特にユダヤ系にはビジネス面でも親交があり、今回のハマスとの戦闘についてもイスラエルを全面支援しています。

もともとドイツからの移民の家系で、トランプ氏自身、考え方がネオナチ、白人選民思想の持主で、深いところでユダヤと対立するリスクを指摘する向きもあります。このため、イスラエルのネタニヤフ首相とトランプ大統領の相性も必ずしも良いとは言えません。そこに、「ハイル・ヒットラー」のイーロン・マスク氏がトランプ陣営の参謀となると何が起きるのでしょうか。

マスク氏はAfDの集会で、「ナチスの歴史にまつわる過去の罪悪感にとらわれるな」、「ドイツの偉大な未来のために戦おう」と講演しています。ハイル・ヒットラーを公然と表明するイーロン・マスク氏に対して、イスラエルがどう感じるでしょうか。トランプ氏とイスラエルとの蜜月に冷水を浴びせるリスクがあります。

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