“イーロン・マスク大統領”のナチ賛美と反ユダヤ主義傾倒が世界にもたらす想定外。思想強めのリストラ屋に漂う危うさ

 

米国の分断を加速

トランプ大統領の存在そのものが米国の分断を誘う面がありますが、イーロン・マスク氏はこれを増幅する面があります。特にマスク氏の「反ジェンダー」はトランプ氏に勝るとも劣らぬ強烈さで、トランプ政権の反ジェンダー性をより強調する面があります。すでにパリ五輪での金メダルを獲得したジェンダーの選手に対して、「男が女性の競技に出るべきではない」と批判を強めています。

米国では近年、赤(共和党)と青(民主党)の分断が進み、両者の落としどころを見つけることが困難になっています。両者を満足させるプランが見つからず、多数側の利益優先となりがちですが、マスク氏を加えた今次トランプ政権はドイツのAfDのように極右政党化しつつあり、米国の分断がより深くなろうとしています。

出過ぎた杭は打たれる

第二次トランプ政権は、トランプ大統領に絶対服従の人間が集められました。これでトランプ大統領の意のままになり、異論を唱える者がいなくなることが逆に懸念されています。その行き着く先は、国民の半数がトランプ氏のやり方に耐えられなくなり、国民が大統領に異を唱える形、例えば中間選挙で議会が赤から青に塗り替えられ、大統領の力を削ぐ可能性もあります。

その一方で、トランプ氏の立場を考えずに出過ぎた行動に出れば、政権から排除されるリスクがあります。第一次政権で大きな影響力を示したトランプ氏の娘婿、クシュナー氏が、現政権ではほとんど表に出てきません。大統領にしてみれば意思決定者は大統領一人で良いわけで、出過ぎた真似をする人間は排除されることを示唆しています。

その点、2月24日号のタイム誌は、その表紙に大統領執務室に座るマスク氏を大きく取り上げました。これを指摘されたトランプ大統領は「タイムはまだ営業しているのか」と不機嫌に言い放ちました。「マスク大統領」と揶揄され、ある意味ではトランプ大統領以上に目立つイーロン・マスク氏は、いずれトランプ氏にとって「目の上のたんこぶ」になる可能性があり、排除されるリスクがあります。

また、かつて日本でも民主党政権下で「効率化」の観点から政府機関の整理統合、人員削減がなされ、その結果政府統計の質が低下し、日本経済の諸問題、症状を的確に表せなくなった経緯があります。マスク氏の政府効率化省は早速政府職員の大規模削減を実施し、トランプ大統領はCIAを実質解体して、イスラエルのモサド、英国のMI6のような機能を米国から排除しようとしています。

ディープ・ステートの排除を狙っているのかもしれませんが、これが米国の国際戦略、安全保障にどう影響するのか、「無駄」の排除が米国の弱体化にならなければよいのですが、これもトランプ政権の「アキレス腱」になる可能性があります。

いずれにしてもイーロン・マスク氏が表に出て目立つ仕事をすれば、ますますトランプ政権に亀裂が入り、政権を揺さぶるリスクがあり、「イロン(異論)・リスク」となりかねません。

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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

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