非常に難しいやり取りを引き受けたトランプとその政権
ただ、今週に入ってガザのみならず、レバノン、シリアを巡る情勢は緊張度を高めており、それらすべてにイスラエルが絡んでいることと、その背後にアメリカがいることから、状況が一気にややこしくなっているのも事実です。
シリアでは暫定政権が新政府樹立に向けた動きを加速させ、その成功のためにはゴラン高原からのイスラエル軍の撤退が不可欠と主張していますし、レバノン政府は、ヒズボラの影響力を削ぐためにイスラエルとレバノンの間で(フランスとアメリカの仲介で)結んだ停戦合意に従い、緩衝地帯からイスラエル軍とレバノン軍がそれぞれに撤退することを求めていますが、イスラエルがそれを拒み、ほぼ無期限で駐留を延長する意向を示していることで、レバノン南部(イスラエル北部)も再びきな臭い雰囲気になってきているように思います。
仲介国として米仏が十分な影響力をイスラエルに対して行使できないと判断された場合、戦火が一気に拡大する恐れが否定できません。
そしてガザを巡る停戦は、アメリカがコミットしているものの、第1段階から第2段階に移行する交渉が難航しており、双方の不満の高まりが、小競り合いに発展したり、意図的な人質解放の遅延に繋がったりして、いつ戦闘が再開されるかわからない状況と伝えられています。
ウィトコフ米特使も焦りを隠せない様子で、イスラエルとハマス双方に自制を呼びかけるとともに、何とかアラブ諸国を巻き込んで事態の鎮静化に努めようとしているようですが、アラブ諸国側にある“しこり”が邪魔をしているようです。
ただここにきてサウジアラビア王国が活発に動き始めているようです。ガザを巡る問題については、利害が生じることは認めつつも、バイデン政権時に「人権侵害を繰り返すサウジアラビアに用はない(カショギ氏の殺害事件を受けて)」と疎まれていたのが、トランプ政権になって再びインナーサークルに戻れる見込みが出来たことで、少しずつではありますが、協力体制を築き始めています(アラブ諸国間の緊急会合を連発しているのもその表れかと思います)。
大きな転機になったのが、ウクライナ情勢を巡る米ロ間の協議をサウジアラビアにホストしてもらったことで、時期は未定としつつも、米ロ首脳会談もリヤドで開催する見込みという一報は、サウジアラビア政府を奮い立たせ、仲介役としてのやる気を再度奮い立たせたと言われています。
米ロの外務大臣の間にファエサル外相を立たせた写真を公表したのも、サウジアラビアが国際舞台に戻ってきたことのアピールに繋がりました。
表向きはロシア・ウクライナ間の停戦協議の仲介ですが(去年末まではカタールが行っていた)、これはガザ問題への協力とのバーター取引と考えられ、ここでもまた、実際の当事者への配慮からの行動というよりは、自国ファーストの視点に立ったコミットメントの強化であることが覗い知れると思います。
いろいろな思惑が絡み、いろいろな交渉トラックが今、並行して走っていますが、ウクライナを巡る情勢も、イスラエルとその周辺の情勢も、非常にデリケートなバランスの上で何とか安定を保っているにすぎません。
ウクライナの戦力の低下と戦意の低下は、ウクライナの抵抗にあまり時間が残されていないことを暗に示していますし、ガザを巡る調停の失敗は、即時に中東全域を巻き込む大紛争に発展する危険性に繋がるため、非常に難しいやり取りをトランプ大統領とその政権は引き受けたことになります。
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