「完全なお手上げ状態」に陥りかねないウクライナ
国内の発電量の50%超を4つの原発(フメリニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポロージェ)に依存しているウクライナのエネルギー事情に鑑みると、到底飲める条件ではなく、かつ原発をアメリカに所有させた場合、原発から得られる巨額のエネルギー収入を戦後復興に用いることができなくなることもあって、ウクライナ政府は真っ向から反対しています。
ちなみに4つの原発は現時点で1,400万キロワットの発電能力を持ち、ウクライナ政府は2040年までにその能力を2,400万キロワットまで高める計画をしていることから、アメリカとしては、先に提案したレアアース権益という予測不可能なアセットよりも、安定的に巨大な経済的利益をもたらす原発を所有したいと考えているのではないかと考えます。
一応、トランプ大統領は「アメリカが重要インフラである原発を所有することによって、ロシアからの攻撃を抑止することができる」ともっともらしいことを言っていますが、仮に所有したとしても、米軍をウクライナに派遣して原発の防衛にあたらせるようなことは絶対にしないと考えられるため、本当にロシアによる再侵攻に対する抑止力になるとは思えません。
ただ、個人的な意見ですが、現在、ロシア軍に占拠されているザポロージェ原発については、もしアメリカが所有することになれば、ロシアからの妥協を引き出す交渉カードにはなるかもしれません。
ただ、やはりロシアがそれに合意することはないと思われ、仮に合意の意志を示した場合には、ザポロージェからの撤退の見返りとして、ウクライナの領土割譲を求めることにつながるため、実際に有利かどうかはわかりません。
こうなるとウクライナは完全にお手上げ状態になり、トランプ氏の個人的な利益・実利の追求とプーチン大統領の面子という大きな力の前に屈することになるかもしれません。
それを防ぐには、アメリカからの軍事支援が先細りになる中、欧州からの軍事支援の迅速な拡大が必要なのですが、ハンガリーからの反対に直面して、今、“決めることができないEU”が常態化し、欧州による対ウクライナ支援は完全に止まってしまい、ゼレンスキー大統領とウクライナはロシアに対する有効な交渉カードを確保できず、どんどん知らないところで、自国の権益と尊厳をむしり取られるという屈辱的な状況に追いやられつつあるように思われます。
ただ、トランプ大統領も望むものを獲得できるかどうかは分からず、その成否はプーチン大統領の胸三寸とも言えるため、結局は“できるだけ早く成果が欲しい”という姿勢ゆえに手玉に取られ、合意内容を骨抜きにされるか、合意自体を先延ばしにするかという、プーチン大統領絶対有利な状況を作られているように思われます。
部分的に今、ロシア・ウクライナ間の調停プロセスに関与していますが、残念ながら、ポジティブな出口を見出すことは出来ずにいます。
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