中島聡が「ラピダスの大敗北」を直感する理由。TSMCになれない日本の半導体メーカーが抱える「最大の弱点」とは?

 

日本の半導体メーカーがTSMCになれなかった最大の理由

日本勢がスケールメリットを享受するためには、思い切った設備・研究開発投資が必要になりましたが、大きな企業の一部である半導体部門には、そんなリスクを負うことができなかったのです。

TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は、半導体の製造のみを請け負うファウンドリとして1987年に台湾の国策で作られた企業で、半導体の製造技術一本にフォーカスすることにより、スケールメリットを享受して大きな売上を計上し、そこからさらなる積極的な設備投資という好循環を作り出すことができました。

この論文によると、日本政府もこの問題に気付き、各社から半導体部門を切り離して統合しようと試みましたが、なかなかうまくいかなかったそうです。

最終的には、かろうじて日立製作所、三菱電機、NECの半導体部門を統合したルネサスだけが生き残った形になりましたが、ルネサスは半導体の設計と製造の両方を行う企業である点で、TSMCとは大きく異なります。

この論文には書かれていませんが、パソコン市場が成熟・コモディティ化して、競争が激化したことも日本の半導体ビジネスを衰退させた原因の1つだと私は解釈しています。各社がパソコンには自社製のDRAMを採用するなど、悠長なことは言ってられなくなった上に、日本のパソコンのシェアそのものが大きく下がり始めたのです。

電電公社向けの電子交換機、日本の銀行向けのメインフレーム、のような護送船団方式が通用しないオープンな市場での戦いに負けてしまったのです。

少し話はズレますが、似たようなことは、日本の携帯電話市場でも起こりました。日本の携帯電話機メーカーは、NTTドコモを頂点にした護送船団方式でビジネスを立ち上げましたが、世界の通信方式の共通化が進み、AppleがiPhoneをリリースすると、日本のメーカーはこの市場からほぼ駆逐されてしまいました。

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