中島聡が「ラピダスの大敗北」を直感する理由。TSMCになれない日本の半導体メーカーが抱える「最大の弱点」とは?

 

“日本の国策”ラピダスは大失敗に終わりかねない

この論文では、現在、日本で進行しているの3つの半導体事業について紹介しています。

  1. TSMCの熊本工場、JAMS(TSMC、トヨタ、デンソー、ソニーの合弁会社)
  2. 北海道千歳市のラピダス
  3. 横浜のTSMCジャパン3DIC研究開発センター

この中で、もっともリスクが大きいのがラピダスで、現時点での主戦場である3~4nmの一歩先をいく2nm半導体を製造するファウンドリとして、日本政府の肝煎りで作られた会社です。

この論文は、(複数の会社がリスクを負っている)JAMSと違って、ラピダスの設立資金の大半を日本政府が提供していること(約1兆円)、量産体制を作るまでには、さらなる投資が必要なことを指摘した上で、既存ビジネスからの収益を次世代技術への先行投資に使うことができるTSMCと戦うことの難しさを指摘しています。

リスクの大きさを考えると民間からの大きな投資は期待できず、日本政府として、さらなる兆円単位の投資を続けることができるかどうかには、大いに疑問があると私は見ています。

日本では、AIチップベンチャーのTenstorrentがラピダスを製造パートナーとして選んだかのように報道されましたが(ラピダスが“伝説の”技術者とタッグ、「初期顧客として期待」と小池社長)、実際のところは、LSTC(Leading-edge Semiconductor Technology Center)がTensorrentからAIチップのIPをライセンスし、それをラピダスに製造委託する、という話でした(参照:Tenstorrent Licenses RISC-V CPU IP to Build 2nm AI Accelerator for Edge)。

LSTCは、ラピダス会長を務める東氏が理事長として22年12月に設立された、東京都小金井市の国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)内に作られたラピダスのパートナー企業で、このケースでは、Tenstorrentがラピダスをチップの製造委託先として選んだわけではないのです。

ラピダスが本当に必要なのは顧客です。最先端の2nmプロセスを目指すのであれば、Apple、NVIDIA、Qualcommクラスの上客が必要で、そのためには、彼らの信頼を勝ち取る必要があり、簡単ではありません。しかし、一旦信頼を勝ち取ってしまえば、新たな製造ラインを構築するための資金を社債の形で提供してくれることすらある、特上の顧客です。

そのためには、ラピダスは1日でも早く実績をつくる必要があり、仲間であるLSTCからの注文でも構わないので、品質の高いチップを製造・提供し、それが市場で価値のあるものであることを証明することが求められており、簡単ではないと思います。

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