全ての紛争案件をテーブル上に並べ一気に解決を図るという手法
いろいろな意見が出て、様々な見解が示されました。中には「今こそ適切な去り際」と調停プロセスからのexitのタイミングを模索する専門家もいましたが、「まだ何か手はあるに違いない」と信じて、プロセスに踏みとどまる専門家もいます。
私は後者のグループに属しますが、非常に難しい複数案件を同時に調停する困難さをひしひしと感じつつ、「何かまだ見落としている要素はないだろうか」と考え続けています。
そのような中、「アメリカ政府の方針転換による混乱が、政権スタートから100日以内に成果が欲しいという特異な心理状況の結果だとしたら、100日を過ぎたあたり、つまり日本のゴールデンウイークが終わるころには潮目が大きく変わり、国際的な調停のwindowが開くかもしれない」と考えています。
ロシアのプーチン大統領の企て通りに、ロシアがのらりくらりと時間稼ぎをし、次々とアメリカや欧州が呑めないような条件を出し、その間にいろいろな理由をつけてウクライナへの攻撃を強め、軍事的な優勢を確立するという事態になった場合、ロシアとしては一切停戦を急がなくてはならない理由がなくなるため、協議の場も設けられず、戦争は継続されることになります。
その際、仲介は不可能とトランプ大統領が判断した場合、激しくプーチン大統領を非難するか、その責任を“アメリカからのディールを迅速に受け入れなかった”ゼレンスキー大統領に擦り付けるかして、アメリカが手を退くという可能性は否定できません。
欧州各国が口ばかりで結局支援があてにできない現状では、アメリカが退いた後のウクライナは一気にロシアに飲み込まれ、実質的に崩壊する可能性が高まります。
ここでもしウクライナという国が崩壊するか、ゼレンスキー大統領が退陣を余儀なくされる状況に陥れば、あまり望ましい形にはなりませんが、表面的な“停戦”の機運は生まれるかもしれません。
ただし、ロシアの条件を丸のみにする(すでにトランプ大統領の姿勢はそれに近いですが)形での停戦が成立する可能性がありますが、ウクライナはロシアの政体に吸収され、実質的にはロシアの衛星国となるかもしれません。
紛争調停官としてはあまり出番のない調停になってしまいそうですが、戦争は一応終結することになります。
最悪の場合を除き、最後までこのチョイスは模索しませんが。
では、他にどのような調停が可能でしょうか?
例えば、並行して起こっている紛争を繋ぎ合わせてパッケージ化するのはどうでしょうか?
いつもこのコラム内では「紛争が相互に反応して繋ぎ合わされることで戦火が広がり、世界戦争に発展するかもしれません」といったようなお話になりますが、ここで触れたい“紛争案件のつなぎ合わせ”は、純粋に交渉術としてすべてのパッケージとして扱い、single undertakingに近いニュアンスで紛争の解決を一気に行おうという手法とお考えいただければ良いかと思います。
仲介・調停のやり方・手法には問題があると見ていますが、現在、トランプ政権の特使として中東案件とロシア・ウクライナ案件を同時に扱っているウィトコフ氏の存在は、このアイデアに近いと思われます。
仮にウィトコフ氏的な立ち位置にいる誰かが、すべての紛争案件を一旦テーブル上に並べ、すべてを同時に眺め、類似点と相違点、紛争同士がリンクしている点などを整理し、その上で全体にまたがるsingle solutionを提示することで、一気に解決を図る手法です。
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