自らを「手いっぱいの状況」に追いやっているトランプ
ただ国際紛争と内戦をパッケージに組み込んで解決することは適切ではないと考えます。
例えば、上記のパッケージに、スーダンの内戦や、コンゴ民主共和国内での100を超える当事者間で争われる覇権争い、そしてミャンマー内戦などを加えても、common elementsがないと思われるため、あまりよい策にはなりません。
これらの紛争案件の解決には、周辺諸国や、かつて植民地支配を行った旧宗主国などが間に入るスタイルが望ましいと思われますが、現在のシリアでの混乱に対するアラブ諸国の態度を見れば分かるように、周辺国もそれぞれの利害で動き、下手すると代理戦争の様相を作り出してより紛争を複雑化するという弊害もあるため、ここもまたハンドリングが非常に難しいと言わざるを得ません。
ひと昔なら、良いか悪いかは判断が分かれますが、世界の警察官的な役割を自任していたアメリカが仲介役として介入して、支援を梃子に合意を作り上げてくるスタイルが成り立っていましたが、アメリカがその役割を放棄し、かといって中国やロシアがその役割を担えるだけの実力を兼ね備えていないため、多くの紛争案件が放置され、仲介・調停プロセスの開始にまで漕ぎつけることができないのが現状です。
現時点でもそれが出来うるのはアメリカだけだと思うのですが、そのアメリカ政府は今、ガザに首を突っ込み、シリアでのプレゼンスを落とし、シリアには直接関わらず、レバノンの案件もイスラエル側に立って対応し、イランとの緊張を高めるのか和らげるのか分からない動きを取り、そして北朝鮮問題にも介入することで、手いっぱいの状況に陥り、現行の国際情勢を大所高所から全体像を把握して、一気に対応に乗り出すというスタンスが取れない状況に、自らを追いやっています。
トランプ大統領はロシア・ウクライナ戦争とガザ紛争を半年以内に止めると公言しました(当初は就任から24時間以内でしたが)が、その達成の見込みは限りなく低く、調停者として皆の意見を聞くのではなく、自分が考える“あるべき姿”を当事者に対して受け入れを迫るという姿勢を続ける限り、アメリカとトランプ大統領はpeace makerとしてのレガシーを築く代わりに、世界秩序を修復不能なまでに崩壊させ、防ぐと豪語していた第3次世界大戦の引き金を引く役割を担ってしまう可能性があります。
Point of No Returnを踏み越える前に、“やりかた”を再考し、強いリーダーシップを発揮して世界の諸問題に対して解決をもたらすようなマジックを発揮してほしいと願っていますが、果たしてその日は来るのでしょうか?
スタートからもうすぐ100日が経つトランプ政権。世界に安定と安心を取り戻す救世主になるのか?それとも究極の破壊者になるのか?
関税措置の発動によって、国際経済に対して多大な損失を与えているトランプ政権ですが、武力紛争がもたらす不安と破壊に対しては、終止符を打つことができるのか?
予想さえ不可能な状況になってきているように感じますが、世界の英知によって思いもよらない“いい”結果が導き出されることを、まだ心のどこかで信じながら、できることに尽力したいと思います。
とりとめのない内容になってしまいましたが、以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年4月18日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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