トランプ関税を警戒し準備を進めてきた中国の自信
では、中国は何を基準にどんな判断を下そうとしているのか。
それを考える意味で示唆的だったのは、4月16日の『ブルームバーグ・ニュース』の記事、「中国、協議に応じる用意─米国が敬意示し交渉責任者指名なら」である。
記事では「中国がトランプ政権との話し合いに応じる前提」として「(トランプ政権の高官が)無礼な発言を慎み、中国に対して敬意を示す」ことや、「アメリカがより一貫した立場を取ること」、また「制裁及び台湾に関する中国の懸念に対処する意思をアメリカが示す」ことも指摘されている。
一つ一つ見ていこう。
まず無礼な発言や敬意の不在については、J・D・バンス副大統領の「アメリカは中国の小作農から借金している」という発言が想起されるが、これに中国外交部報道官が、「無知で無礼」と強烈に反応したことは記憶に新しい。
中国軽視の姿勢は、習政権が「対等な立場で交渉のテーブルに」と繰り返し求めていることにも通じることだ。
次に「アメリカの一貫した立場」と「台湾問題」への配慮だ。
前者の「一貫した」は、要するに「一貫しない」アメリカの各政権への不満であり、実はバイデン政権時代から中国を悩ませてきた「言行不一致」の問題だ。
具体的には、中国の体制転換は求めないといいながら「自由主義VS専制主義」の戦いと中国を攻撃し、中国包囲網を形成しないといいながら「AUKUSやQUADで中国の国内問題に言及する」ことなどだ。
さらに「台湾問題」だ。
台湾独立勢力をアメリカが支援し、中国を挑発し続けていることへの習政権の不満は深い。いわゆる「台湾カード問題」だが、関税の協議の席に着く条件として、台湾でアメリカに譲歩を迫る可能性が高いという。
実際、トランプ政権の面子を保ちながら米中が交渉を行う裏側で、台湾が切り捨てられるというのは、考えられるシナリオだ。
だが、中国が解決しておきたい問題はこれだけではない。長期戦を覚悟する目的はおそらく、関税や制裁がルーズルーズしか生まないことを徹底的に思い知らせることだ。
以前、このメルマガでも触れたように、中国は早くからトランプ関税を警戒し、準備を進めてきた。そのため関税戦争では、中国が受けるダメージよりアメリカが被るダメージがはるかに大きいことを計算し、自信を持っている。
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