「すべて」に込められた強い意味。神奈川発インクルーシブ教育の最前線から見えたもの

Beautiful,Blurred,Background,Of,Bright,Classroom,And,Study,Room,With
 

誰もが一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」の実践、普及に向けて動き続けている、生きづらさを抱える人たちの支援に取り組むジャーナリストの引地達也さん。引地さんは自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の中で、先駆的な仕組みを作った神奈川県のインクルーシブ教育モデルについて紹介しています。

「すべて」に込められたインクルーシブ教育の神奈川モデル

誰もが一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」の実践として、オンラインを通じて学びを提供しているみんなの大学校は今学期、学期が始まってから「学びたい」意向が各方面から示され、「学ぶ」が広がっている。

オンラインを使うことによる「誰でも、どこでも」のスタイルは重症心身障がい者のニーズに親和性もある。

これをインクルーシブ教育のひとつとして提示し、各地に事例として示していきたいと思うが、もちろん、インクルーシブ教育の実践はここだけではない。

義務教育の中での実践、県立高校での取り組み、普通高校と特別支援学校の交流の活発化など、少しずつではあるが、全国での実践と知見は蓄積され、特に神奈川県の実践は先進的。

私が取り組む18歳以降を対象とした生涯学習も、幼い頃からインクルーシブ教育が当たり前になれば、それは社会全体として自然な取り組みになるのだろう。

日本が2014年に批准した障害者権利条約には「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system)が明記され、それは「人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組み」とし、障がいのある者が「一般の教育制度」(general education system)から排除されないこと、であると説明している。

文科省は、共生社会の実現に向けて「インクルーシブ教育システムの理念が重要であり、その構築のため、特別支援教育を着実に進めていく必要があると考える」立場だ。

具体的には「同じ場で共に学ぶことを追求」するために、「個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要」との認識である。

しかしながら、この考えや実践は全国的に広く浸透はしておらず、取り組みは未だに限定的だ。

東京都教育委員会は、「社会全体で共生する意識を高める教育を推進するため」に、市町村教育委員会を支援する形で、多様な学びへの実践的な研究を行っている。

それは「障害のある児童・生徒と障害のない児童・生徒との交流及び共同学習など、障害の有無に関わらず、個々の教育的ニーズに的確に応え、多様な学びの場を備えた教育の促進」のためと説明し、2023年には実践報告書を出している。

市町村のミクロな取り組みが今後、どのような展開をするのかが重要だろう。

一方、神奈川県では、障害者権利条約を批准した翌年の2015年から障がいの有無にかかわらず、全ての児童生徒が通常の教室で学び、必要に応じてサポートを受ける仕組みの構築を始めている。

支援が必要な対象を分けるのではなく、学校全体でサポートする仕組みは先駆的だ。

そして、今、県内18の県立高校をインクルーシブ教育実践推進校として取り組みが進んでいる。

実践推進校では多様な入試を行い、多様な生徒を受け入れ、そして一緒に学び、将来に向けたキャリア教育を行う仕組みである。

私自身は過度なキャリア教育には慎重な立場であるが、ほかの生徒らと一緒に課題に取り組む教育方針の中で、適切に機能できれば最適なモデルにもなるだろう。

なお神奈川県教育局には、インクルーシブ教育推進課があり、そこのホームページには啓蒙冊子「もっと!インクルーシブ教育」が閲覧できる。

そこには「すべての県立学校で、すべての生徒が学びやすい授業、学校づくりに取り組んでいます」と書かれている。

「すべての」学校と生徒、という表現に力強さを感じながら、その事例から私も学んでいきたい。

この記事の著者・引地達也さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shutterstock.com

引地達也この著者の記事一覧

障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスティックなやさしい未来 』

【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

print
いま読まれてます

  • 「すべて」に込められた強い意味。神奈川発インクルーシブ教育の最前線から見えたもの
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け