弾劾を経て罷免された尹錫悦氏に代わり、韓国を率いることとなった李在明新大統領。その選挙戦は日本でも伝えられているように「フェイク動画」の拡散が大きな問題となりました。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』ではジャーナリストの引地達也さんが、何がこのような事態を招いたかについて分析。さらに今後の日韓関係をより良いものにするため、両国のリーダーに求められる姿勢を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:混乱は収束するのか、韓国大統領選のフェイク拡散と日韓関係に向けて
日韓関係は争点にならず。韓国新大統領が招いた選挙戦でのフェイク拡散
6月3日に投開票された韓国大統領選は、革新系の最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補が保守系の与党「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)候補らを抑え、勝利した。
韓国大統領選挙は、常に保守か、革新かの選択を迫る構図で、今回も前大統領の弾劾をめぐる混乱を受けての選挙であったが、その構図は変わらなかった。
分断された2つの違いは日韓関係や北朝鮮に対する政策が代表的であるが、今回、日韓関係は選挙の争点にはならず、混乱した政治の収束、低迷する経済の対策と「南北関係」のスタンスが注目された。
さらにSNSによる候補者の言動が拡散された影響も大きい。SNSを巧みに利用した李候補だが、結果的にそれがフェイク動画の拡散を助長したようにも思える。
今回の選挙では、国会で少数与党となった前回の総選挙を敗れた陣営から「不正選挙」と主張される雰囲気が反映されたようだ。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領も昨年4月に実施した総選挙を不正選挙だと主張し、戒厳令を正当化したことは記憶に新しい。
この流れを受けるように大統領選挙ではインターネットで「不正選挙論」とするフェイクニュースも出回った。
2人の候補者の虚偽の画像や、加工した「ディープフェイク」動画が拡散した。これらの動画は、候補者自身が積極的にSNSを活用したことも影響を与えている。
自らが演出した動画は、親しみやすさを強調するばかり過剰な演出も目立つ。ユーチューバーとコラボレーションした企画で若者への支持拡大を狙った結果かもしれない。
李候補は自ら女性のかつらを被って「かわいい私」を演出したインタビューが「うけた」ようだ。
拡散できれば何でもあり、のような印象を与えてもおかしくない動画は、結果としてフェイク画像を暗に容認する雰囲気が醸成され、それが広まり、選挙そのものへの信頼が損なわれた面もある。
聯合ニュースによると、韓国のシンクタンク「東アジア研究院」の調査で、選挙を執り行う中央選挙管理委員会を「非常に不信感を持っている」「不信感を持っている」と回答した割合は42%。これは保守系政党の支持者で多い。
今回の選挙では投票率が79.4%と、1997年以来最も高い。国民への期待に応える上でも、選挙への信頼回復も課題である。
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