中国の内情を知らぬ素人の憶測でしかなかった「台湾侵攻」煽り
このような、今にも中国が問答無用で台湾を軍事的に侵攻しようとしているかの虚偽宣伝は、本誌も何度か報道し分析してきたように、バイデン政権発足から間もない2021年3月に退任目前のデビッドソン=アジア太平洋軍司令官が米上院の公聴会で行った証言から始まった。
彼はその時、中国の台湾侵攻の可能性について議員から問われ「この10年以内、実際には今後6年以内にその脅威が現実化すると思う」と述べた。このように、軍人のトップ級が年限を明示して中国の侵攻が切迫していることを告げた例は(たぶん)他にないため、極めて現実味のある予測であるかに受け取られ大いに話題となった。
しかし、後に明らかになったところでは「6年以内」というのは、「2027年は中国人民解放軍の創建100周年に当たるから」だとか、「習近平主席が3期目の任期を終える27年秋に4期目を目指そうとすれば、戦争を引き起こして国民を結束させるくらいのことをしないと無理だろう」という程度の、中国の内情に全くの素人の憶測でしかなかった。
ところが、一度放たれたその言葉は一人歩きして、あちこちに波紋を呼び起こした。日本でそれに最も強く反応したのはその半年前に首相の座を降りたばかりの安倍晋三で、盟友の麻生太郎と語らって「これだ!これこそ日本の状況認識の柱にしなければ」という調子で「台湾有事は日本有事」という迷文句まで創造して盛んに振り撒き始めた。
そしてその効能も陰り始めたかと思われた22年2月というタイミングで、ロシアがウクライナに侵攻したため、バイデン大統領が真っ先に「ロシアのウクライナでの戦争が中国に台湾の島を攻撃しようという気にさせるかもしれない」と言い出し(本誌22年10月No.1176「日本本土も攻撃目標に。台湾独立宣言なら必ず武力行使に出る中国」)、「ほらみろ、やっぱり(元共産国の)ロシアは恐ろしいじゃないか。そのロシアと(現共産国の)中国は友好国だから、中国は必ずロシアに見倣って台湾に侵攻するに違いない」といった、冷戦時代の反共イデオロギーの復活をベースにした「ウクライナ台湾連動説」が沸き起こり、デビッドソンの妄言を補強したのだった。
その意味で、へグセス米国防長官の今回のスピーチは、デビッドソン以来の軍部側からの言葉の戦争の流れの中にあるものと言える。
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