「台湾有事は日本有事」という誤解。日米が介入すれば「日本有事になってしまう」だけという理屈が分からぬ人々

 

「台湾有事は日本有事」にならない実に簡単な理屈

蛇足だが、私は「台湾有事」を論ずる場合の基本となる3カ条を定めていて、この初歩の初歩を外した議論は皆、眉唾物だと判断する。恐らく文谷氏も同意見だと思う。

第1条

台湾有事すなわち中国の武力による台湾制圧は、唯一、台湾が現在の「事実上の独立」状態に我慢できなくなって「名目上の独立」に進もうとした時にのみ起こりうる。

第2条

仮に有事が起きてしまったとしても、それは中国の立場からはもちろんのこと、台湾の(本来の、つまり国民党的な)立場からしても、「1つの中国」の国内における「内戦」であり、米国にせよ日本にせよ、それに外から介入すればそれは侵略に当たり、ウクライナの内戦に外から介入して世界中の非難を浴びたロシアのプーチンと同じ過ちを冒すことになる。

第3条

「台湾有事は日本有事」なのではなく、「台湾有事に米国と日本が介入すれば日本有事になってしまう」のである。中国は素早く内乱を鎮圧したいので、電撃的に台北の政治中枢を制圧し(おそらく事前に用意しておいた)親中派の省長を立てることに集中し、自分の方から戦線を拡大して敵を増やすことはしない。

しかし、米日が軍事介入してくれば話は別で、中国はウクライナとは違って、日本のみならず韓国、フィリピン、シンガポール、グアムなど全ての周辺の米軍基地と、それに追随する自衛隊の基地に、一斉ミサイル攻撃を行って壊滅させるだけの能力を備えているので、そのかねて準備の作戦を発動するだろう。

だから、仮に台湾に内乱事態が生じても、日本がノコノコ出て行くことをしないばかりか、米軍が介入することをも制止すれば、「台湾有事は日本有事」にならない。

実に簡単な理屈だと思うが、どうだろうか。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年6月16号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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