「台湾有事は日本有事」という誤解。日米が介入すれば「日本有事になってしまう」だけという理屈が分からぬ人々

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いつ起きてもおかしくないと叫ばれ続けて久しい台湾有事。5月末にはアメリカのへグセス国防長官が国際会議の席上、「その際」の軍事介入を示唆したことが大きく報じられました。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、ヘグセス氏の発言を「粗雑極まりない」と一刀両断。その上で、「台湾有事は日本有事」なる言説がどれだけナンセンスであるかを解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:ヘグセス国防長官の粗雑な「中国脅威論=台湾有事論」にはウンザリだ/『軍事研究』7月号を読め!

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

いいかげんウンザリ。米国防長官「中国脅威論=台湾有事論」の粗雑

へグセス米国防長官は5月31日、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議で演説し、要旨次のように述べた。

▼中国の脅威は現実的であり、差し迫ったものであるかもしれない。中国が、インド太平洋のパワーバランスを変えるために軍事力を行使する可能性を準備していることは、誰の目にも明らかだ。

▼中国が台湾を征服しようとすれば、インド太平洋と世界に壊滅的な結果をもたらすだろう。

▼トランプ大統領は「自分が見ている中で中国が台湾を侵略することはない」と言っている。戦争を防ぐのがわれわれの目標だ。同盟・友好国と築き上げる強力な抑止力によってこれを実現する。

▼もし抑止に失敗した場合、米国防総省は最も得意とすることを実行する用意がある。すなわち、断固として戦い、勝利することだ。

▼NATO加盟国はGDPの5%を防衛費に充てることを約束している。アジアの主要な同盟国が、北朝鮮など手ごわい脅威に直面しているにもかかわらず、防衛支出がより少ないというのは理にかなっていない……。

アイゼンハワー米大統領が1954年4月の記者会見で唱えた「ドミノ説」――どこか1カ所でも堤防が破れれば共産主義の脅威が次々に周辺の国を冒していくに違いないという恐怖煽動レトリックを彷彿とさせるような粗雑極まりない議論である。

いちいちは取り上げないが、例えば「中国の脅威は現実的」という言い方はいかにも軽々しい。プロの軍人は、潜在的脅威がいついかなる条件で現実的脅威に転化するかの判断に命懸けになるが、それは現実的脅威だと判定すれば直ちに開戦準備に着手しなければならないからである。

今から20年前の昔の話だが、旧民主党代表だった前原誠司が訪米してジョージタウン大学で講演し「中国の軍事力拡大は現実的脅威であり、これに毅然とした対応が重要。シーレーン防衛のために集団的自衛権を行使できるよう憲法改正が必要だ」と述べた。

すぐに知り合いの米人記者からメールが届き、「前原は自民党右派より右じゃないか。おまけに、中国を『現実的脅威』と言い切っていて、これは外交・防衛の素人丸出しだよ。大丈夫か、民主党?」と呆れられた。案の定、その直後に訪れた中国では、この発言を理由に胡錦濤国家主席との会談がキャンセルされる恥ずかしい事態となり、それでも本人は「言うべきことを言ったことに自信と誇りを持っている」などとガキっ子ぶりを振り撒いていた。

ヘグセスもこれと同じレベルのガキっ子で、FOXニュースのキャスターとしての軽口と国防長官としての責任ある発言とが区別できていない。

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