一読に値する論文「なぜ『台湾有事』は起きないのか?」
そういう中で、『軍事研究』7月号の文谷数重の論文「なぜ『台湾有事』は起きないのか?」は、一読に値する。筆者は自衛官出身の軍事ライターで同誌の常連執筆者。彼は22年7月号の同誌にも「間違いだらけの台湾有事」と題して寄稿し、それを本誌22年7月No.1164で紹介した。
【関連】現実的にはあり得ない。日米の「台湾有事論」が根本的に誤っている理由
私はこの問題の多くの論点について同意見なので、今回もその肝心な点を紹介する。
▼第1に、中国、台湾、日米の3者は「三角相撲」の構図を成していて、その強力な安定効果のため台湾有事は起こり得ない。中国は「統一したい」、台湾は「自立したい」、日米は「現状維持したい」というそれぞれの思惑がある中で、現実は統一にも自立にも動かない現状維持で落ち着いている。
▼日米からすれば、台湾の自立、中でも独立はもってのほかである。台湾の価値は「中国に刺さったトゲ」であり、何よりも刺さっていることに価値がある。そのトゲを抜く必要はないし、抜いたトゲにも価値はない。
▼中国は統一を進められない。武力統一となると、自立を失う台湾が抵抗する上、そこに現状維持を望む日米が協力する。中国は台湾のみが相手なら勝てるが、日米が台湾に付くとまずは勝てない。できるのは和平統一しかない。
▼台湾も自立を進められない。独立を進めようとすると、中国は武力行使をしてでも止めようとする。そのときには日米は台湾を助けない。現状維持の方針とは反するからである。中国による統一も、台湾の独立も、日米の利益を失わせる事態だからだ……。
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