抑止されていると見て差し支えない対中戦争に突き進む危険
それはともかく、デビッドソン以来の軍部側からの反共反中国認識が、そのまま政権の考え方ではないのはもちろんのことで、バイデン政権時代にイアン・ブレマーが言っていたのは(本誌21年5月No.1098「バイデンが見誤れば核戦争に。中国が海空戦力を増強させ続ける訳」)、
- あくまで中国を敵として対決しようとするネオコン的新冷戦派+昔ながらの軍事的タカ派、
- 米中間の経済面での協力と競合の大人びた関係を上手くマネージしていこうとする経済界主流やリベラル言論界、
- 気候変動抑制やコロナ対策などグローバルな課題で中国を巻き込むことを重視する環境派、
という分岐が政権内で対立する中で、バイデンの最初の2年間はかなり反中国に傾斜したが、後半2年間はガラリと転換し……、
▼22年11月14日、バリ島でのG20首脳会議に先立って習近平中国主席と会談したバイデン米大統領は、会談後、「中国側には、台湾に侵攻しようといういかなる差し迫った企図もないと、私は思う」と述べた。
▼多くの国際的メディアの報道とは反対に、先月の大会では習近平は台湾の問題では全くもって控えめで、激するところはなかった。習は、8月のペロシ米下院議長の訪台を念頭に「外部勢力による目に余る挑発的な干渉」を非難したが、台湾当局そのものを非難することを避け、むしろ「1つの中国」の前提の下での政治的交渉の可能性への期待を残しておくよう心がけた(以上、米ランド研究所のグロスマン上級防衛分析官の「NikkeiAsia」への寄稿:本誌22年11月No.1183「ハシゴを外された日本。バイデン『中国の台湾侵攻ない』発言で崩れた台湾有事切迫論」)。
トランプ第2期となると、バイデン時代の上述 3.は抹消させられたが、神保謙=慶應大学教授の言葉遣いを借りれば(6月8日付朝日電子版)、1.の軍事的タカ派路線は「欧州や中東への関与を減らし、インド太平洋に米国の軍事的資源を集中すべきだ」とする「アジア優先主義派」に変形し、それがヘグセス国防長官に引き継がれている。
他方、2.の経済関係重視派は、「何が何でも米国の経済的利益を優先しよう」とする「MAGA派」の一角を占める主流派となり、“戦争嫌い”(?)のトランプは今のところこちらの方に重心を置いている――と言えそうだ。
この辺りのバイデンからトランプへの政策配置の変転過程は捻くれていて、よく分からないが、いずれにせよ、デビッドソンからヘグセスに至る軍部サイドからの訳分からずの強硬論に政権が引き込まれて、対中戦争に突き進むという危険は、ひとまず抑止されていると見て差し支えない。
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