民放ドラマの質を落とす「俳優26歳限界説」という問題
日本の映像コンテンツ産業において、とくに民放ドラマにおける制作方針の一つとして、若手俳優中心のキャスティングが確立されている。具体的にいえば20代前半の俳優を主演に起用する傾向が顕著である(*5)(俳優26歳限界説)。
理由としては、スポンサー企業による若年層向け商品のマーケティング戦略および広告ターゲット層の設定が大きく影響しているという。
ただ、この若年層重視のキャスティング方針については、話題性やビジュアル、知名度を重視した人材選考により、演技の質・作品の芸術面が制限される可能性が指摘。加えて、若手俳優が技術を十分に確立する前に世代交代の対象となり、キャリア形成の機会を失うケースもあるという。
結果、日本の映像コンテンツは俳優層の多様性が限定され、結果として作品内容の均質化を招いている。
対照的に、海外市場では中堅・熟練俳優が主要な役割を担う事例が数多く存在し、その豊富な経験値が作品の質的向上をもたらしている。国内においても、NHKの連続テレビ小説やストリーミング配信作品では、幅広い年齢層の起用が進む。しかしながら、民間放送局のドラマ制作では依然として若手重視の方針が変わっていない。
ドラマの内容を浅くする教育現場とG7中最低の報道の自由度
日本のドラマが質的に伸び悩む背景には、制作体制やキャスティングの課題だけでなく、社会や文化に根差した構造的要因がある。
とくに地上波ドラマが政治や社会問題を深く扱わない傾向は顕著であり、多くの作品が恋愛、家族愛、刑事ものといった無難なテーマにとどまっている。背景には、政治や社会を語ることを避けがちな日本社会の空気と、視聴者側の関心の低さがある。
この傾向を生むのは、まさに教育現場だ。学校教育では「中立」の名のもとに政治的議論を避ける指導が行われ、批判的思考やディベートの機会が乏しい。こうした教育環境では、社会課題を深く考える素地が育ちにくく、制作者も視聴者もシリアスなテーマに慣れていないため、ドラマの内容が浅くなるという悪循環が生じる。
さらに、日本の報道の自由度はG7諸国中で最も低く、放送業界全体に自己検閲的な体質が根付いている。その影響はエンタメ分野にも及び、テレビドラマでも権力批判や社会風刺を描くことが難しい状況が続いている。
それでも近年では『御上先生』や『ホットスポット』のように、社会問題に踏み込む作品も登場し始めている。この潮流を広げるには、教育現場でのリベラルアーツの充実と、制作者自身の意識変革が不可欠だろう。
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■引用・参考文献
(*1)田崎健太「日本のドラマがこの10年で急速につまらなくなった、本当の理由」現代ビジネス 2017年9月3日
(*2)小西未来「~日本とアメリカのドラマ制作の違い~【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】~世界を席巻するアメリカのドラマ制作の強みとは?vol.1~」VR Digest plus 2018年9月26日
(*3)もりっち「ドラマ『キャスター』は完全オリジナル!脚本家6人の狙いと過去作を徹底解説」まったりエンタメ探検隊 2025年5月11日
(*4)総務省「放送コンテンツの海外展開に関する現状分析(2021年度)」
(*5)「ジャニーズJr.22才定年の衝撃 芸能界に『年齢制限』はあるのか」NEWSポストセブン 2021年1月21日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年6月22日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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