窮地に陥ったトランプ。なぜ大統領のコア支持層MAGA派は「エプスタイン騒動」にここまで怒っているのか?

 

2016年の大統領選で暴露されたトランプのスキャンダル

トランプ氏に関しては、それこそ2016年の大統領選で、投票日の直前に「ミスコン主催者」だった当時のスキャンダルが暴露されました。それは、TVのインタビュー映像で、「自分はミスコンの主催者だから、女性の楽屋に入りたい放題」だという極めて下品な放談でした。調子に乗ってペラペラ喋っていた内容からは性暴力のニュアンスも感じられる内容だったのでした。

当時のリベラル側のメディアは、これでトランプへの支持は下がる、という予測を立てて発言に対する集中的な批判を展開しました。少なくとも女性票は逃げるだろうし、性的な問題にはとても真面目な福音派も「ついていけなく」なる、そんな読みがあったのでした。

ですが、結果的にはこの「暴露動画」の効果は限定的で、その後は就任したトランプ大統領の言動に世界が騒ぐ中で忘れられて行ったのです。但し、反対派の方はしっかり覚えていて、大統領の就任式に際しては「女性の権利を侵害する大統領への反対デモ」が起きました。つまり、この動画をいつまでも覚えていたのは反対派であり、支持層は忘れてしまったようでした。

アメリカではこの種の性的な問題に関する倫理意識は結構厳しいのがデフォルトですが、支持者は気にしていないようでした。恐らく当時の支持者の間では、トランプ氏の「庶民性」が心に刺さる中では、この種の「傷」も一種の庶民性として理解される、そのぐらいトランプ支持者は「偽善的なエリートが嫌い」という理解がされていたのです。

では、どうしてそのトランプ支持者、特にコアの支持層と言われる「MAGA派」は、この「エプスタイン問題」を気にしているのでしょうか?特にトランプ氏とエプスタインの親密ぶりが具体的に描かれているとか、エプスタインが人身売買した少女たちを「提供」していた「顧客リスト」があるという「エプスタイン・ファイル」の公開を強く叫んでいるのはどうしてなのでしょう?

決定的な理由というのは絞り込むことはできません。恐らくは以下の様々な要素が重なり合う中で、これだけ大きな反発になっている、そのように考えられます。

1)トランプ氏が真剣に大統領選への選挙運動を始め、これに対する反対派の「人格が疑問」という批判が起きたのは2015年から16年。それからほぼ10年が経過する中で、当時の議論を知らない世代が有権者になっている。とりわけ、24年の選挙で初めて投票し、2期目のトランプ氏しか知らない世代には、暗殺未遂を生き延び、果敢な攻撃を仕掛けてイランを抑え、更に関税戦争で世界中を屈服させている「強いトランプ」しか知らない。

2)エプスタインがトランプ邸を舞台に女性を食い物にし、トランプはそれを後に夫人となるモデルのメラニア・クナウスと一緒に「恐らくは悪事を知りながら」面白がってパーティーを繰り広げていたのは2003年頃。そしてエプスタインのスキャンダルが騒動となって彼が逮捕されたのは2019年で、この時は既に1期目の大統領だったトランプ氏は、かなりの権威と権力を手にしており、あまり批判を浴びなかった。

3)逮捕から約1ヶ月後の2019年8月に、エプスタインが獄中で自殺した際には、陰謀論が渦巻いた。その陰謀論とは、エプスタインの「顧客ファイル」にはビル・クリントン、ビル・ゲイツ、アンドリュー王子など「左の要人」が名前を連ねており、エプスタインの口を封じるために殺したというものだった。陰謀論者はこの説を強く信じており、今回、トランプ夫妻とエプスタインの関係が報じられるに及んで動揺している。

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