窮地に陥ったトランプ。なぜ大統領のコア支持層MAGA派は「エプスタイン騒動」にここまで怒っているのか?

 

「トランプのカリスマ性に傷がつくのは好都合」と考える人々

4)そもそも、若い女性を食い物にするトラフィッキングについての陰謀論というのは、「Qアノン」が好んで語っていたネタである。その場合は、必ずと言っていいほど悪者にされるのは、クリントン夫妻やオバマであり、漠然と「そういう悪行をやるのは、リベラルだ」という独特の思い込みというか、そのようなカルチャーがあった。そこへ、トランプはエプスタインの親友だったという話題が突如降って湧いたので、右派の陰謀論者は動揺している。

5)考えてみれば、トランプには「次」はない。つまり、ポスト・トランプという動きは、いつ始まってもおかしくない。その場合に「次」の人にとっては、トランプが強いカリスマを維持しているのは、都合が悪い。保守的なイデオロギーは真似できるが、暗殺を乗り越え、存在そのものがアンチ・エリートであるトランプのカリスマは真似できない。そうした「次」のグループに取っては、トランプのカリスマに傷がつくのは、それはそれで好都合だ。

6)2期目のトランプは移民にしても、通商にしても「やりたい放題」であり、いわゆるクリントン=オバマ路線のグローバリズムを完全に破壊しているように見える。けれども、トランプが破壊しているのは、同時にレーガン=ブッシュ父子の共和党本流の資本主義でもある。また、関税戦争による製造業回帰は、その成果が出るにしても時間がかかり、当面は副作用として物価高と商業の低迷を招く。

そんな中で、FRBに圧力をかけて利下げを強要して、更に景気を加熱させインフレを爆発させる危険も出てきた。また、移民狩りを容赦なく農場や工場でも実施する中では、オーナー階層の離反を招く危険も大きい。何よりも、生活苦、雇用難に直面した中で、現状打破を期待したZ世代などには既に反発はある。その意味で、現在のトランプの過剰な権力を抑えることは、共和党の支持者の中にも利害がある。

7)そんな中で、中間選挙まで15ヶ月という時点まで来た。以前は、敵は民主党であり、共和党が団結すれば上下両院を制圧するのは簡単だったかもしれない。けれども、ここまで過激な2期目が進行する中では、無党派層のトランプからの離反というのは懸念される。そんな中で、「いつものように」トランプが各候補に忠誠を誓わせ、そうでなければ予備選でMAGA派にスイッチするという手法が、必ずしも得策ではなくなっている。

中間選挙で浮足立つ中で、共和党政治家は自分たちとトランプとの距離を測りかねている。今回の騒動は、自分と支持者が「トランプ的なるもの」から自由になれるか、また適切な距離を取れるかの試金石と思って各自が動き始めているのかもしれない。

というわけで、今回の「エプスタイン騒動」については、様々な力学、様々なグループの思惑がカオスのように動いているのを感じます。とりあえず、民主党は一致団結しているものの、少数派なので影響力はありません。これに対して共和党議員団が、どのように振る舞うのかが注目されています。焦点は2つあります。

「俗に言う『エプスタイン・ファイル』が公開されるのか、されるとして、どこまで公開されるのか?」

「禁錮20年の刑で収監中のジスレーヌ・マクスウェルに議会証言をさせるべきか、その場合に彼女に恩赦をすべきか?」

という問題です。この問題から離れて訪欧中の大統領ですが、特に彼女への恩赦については、毎日のように番記者から質問が出ており、かなり悩んでいるようです。というのは、恩赦ができるのは大統領だけであり、仮に禁錮20年の刑から救ってもらえるのなら、彼女は大統領に不利な証言はしないという考え方ができるからです。

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