19世紀ヨーロッパに広がった終末思想と排外主義の連鎖
一方、19世紀のヨーロッパは、急激な社会変革とそれに伴う不安に覆われた時代であった。とりわけ科学の急速な進展は、従来の宗教的世界観を動揺させる。
こうした不安定な社会情勢のなかで、キリスト教の終末論的思想が一部の信者のあいだで再び注目されるようになった。なかでも、イエス・キリストの再臨と「千年王国」の到来を信じるプレミレニアリズムは、19世紀の英国およびアメリカにおけるプロテスタント系の福音主義運動を通じて広く拡散した(*3)。
同時に、ヨーロッパ諸国では民族主義の高揚とともに、反ユダヤ主義や排外主義が著しく強まっていった。この現象には、宗教的要因に加えて、社会ダーウィニズム、人種理論、経済的不安など、さまざまな世俗的要素が重層的に関与している。ただ、こうした潮流は政治運動や政策にまで影響を及ぼし、のちの20世紀における極端な排外主義へとつながっていく(*4)。
キリスト教終末論に含まれる「選民」思想が、特定の集団を排除する論理として利用された側面があったことは否定できない。しかし、それが反ユダヤ主義の主要因であったというよりも、むしろ当時の社会的不安や差別構造に宗教的意味づけが加わった結果とみるべきだ(*5)。
ナチスの教訓から生まれた「社会の免疫」とリテラシー教育 欧州に見る教育改革の系譜
ナチスの台頭と第二次世界大戦という惨禍を経て、結果的に欧州諸国は、極端な終末思想やイデオロギーが社会に与える破壊的影響を深く認識するに至った。こうした歴史的教訓は、単なる宗教的思潮の側面を超えて、社会全体の知的基盤を強化する教育改革の推進力となる。
とくに、デマや陰謀論といった終末論的言説が再び台頭することを防ぐために、欧州諸国は公教育の重要性と、とくにメディアリテラシー教育を「社会の免疫」と位置づけ、情報の真偽を主体的に判断し、非合理な恐怖や差別に動じない態度を涵養する取り組みが進めてきた(*6)。
これに対し、日本社会は依然として多くの課題を抱えている。確かに日本は国際的な学力調査において理数系分野で高水準にあるが、科学的思考力、読解力、主体的判断力、そしてメディアリテラシーにおいては課題が残る。
教育の現場では依然として暗記重視の傾向が強く、批判的思考や探究型の学びの機会は限られている。また、情報教育が体系化されておらず、フェイクニュースへの耐性を育む仕組みも脆弱である。
政治的中立性への過度な配慮は、宗教団体やカルト問題の教育的議論を困難にし、学校図書館には専門人員の不足が常態化している。加えて、マスメディアによるデマ対策やファクトチェックの制度的基盤も十分に整っていないのが現状だ。
【関連】7月5日の「大災害」予言騒動は自民党が引き起こした!? 無力感に苛まれる国民が終末予言に“癒やされる”仕組みを心理学者が解説
【関連】7月5日の「大災害」予言を信じた人は「貧困予備軍」ばかりだった!? 未来予測を好む人ほど「お金に嫌われる」理由
【関連】たつき諒氏の予言漫画『私が見た未来』が警告する大災害。なぜ2025年7月5日が“不安視”されるのか?
【関連】“新ノストラダムス”も「7の月」予知夢に共鳴。たつき諒氏「2025年7月5日大災害」を拡散する預言者たちの言説を徹底検証
【関連】2025年7月5日に起こる大事象は「予言の自己成就」か「予言の自殺」か?人間の思考が未来を書き換える不思議なメカニズム
■引用・参考文献
(*1)「降りてこなかった?『恐怖の大王』(平成のアルバム)」日本経済新聞 2018年11月2日
(*2)中田彩・稲垣彩「欧州3か国におけるデジタルメディアリテラシー教育」 カレントアウェアネス・ポータル 2022年6月9日
(*3)柏本隆宏「キリスト教再建主義の神学思想に関する宣教学的考察(2)」大学院研究論集(西南学院大学)
(*4)「なぜ、ホロコーストは起きたのか」NPO法人ホロコースト教育資料センター
(*5)「反ユダヤ主義」世界史の窓
(*6)「反ユダヤ主義」世界史の窓
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年7月27日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com









