国際社会からの猛烈な非難にも関わらず、ガザ地区への攻撃の手を緩める素振りも見せないイスラエルのネタニヤフ首相。そのような状況の中で、ネタニヤフ氏の「戦争犯罪行為」の裏付けが明らかになりつつあるようです。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、その「2つの証拠」を紹介。さらに過去に例のないジェノサイドを続けるネタニヤフ首相を強く批判しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ネタニヤフという暗殺者
記者を暗殺し民間人を虐殺。暴かれたネタニヤフの非道
パレスチナ自治区ガザで8月25日、南部ハンユニスのナセル病院をターゲットにしたイスラエル軍の二度に渡る空爆があり、少なくとも20人の民間人が死亡、多数の負傷者が出ました。
ガザの民間施設をターゲットにしたイスラエル軍の残虐なジェノサイドは今に始まったことではありませんが、ここで注目すべきは、今回死亡した20人の中に、AP通信、ロイター通信、アルジャジーラのカメラマンなど報道関係者が5人も含まれていたという事実です。
こちらも既報なので、ガザに注目している人はご存知だと思いますが、2週間ほど前の8月10日、今回ととても類似した攻撃がありました。ガザ市のアル=シファ病院の正門の外に設置された報道関係者用のテントが、イスラエル軍によってピンポイントで攻撃され、アルジャジーラのアナス・アル=シャリフ記者を含む7人が死亡したのです。
ガザでは現在、イスラエル軍による人為的飢饉によって、連日のように多くの市民が餓死し続けています。ガザ保険局によると、8月20日時点で、子ども112人を含む269人の市民が餓死したと報告されました。また、食料を得るために配布所に並んでいたところをイスラエル兵の無差別射撃で殺された民間人は、20日までに2,018人に上っています。
アル=シャリフ記者を始めとした各社の報道関係者は、数カ月前からガザの飢餓の様子やイスラエル軍による残虐な行為を世界へ発信し続けて来ました。そして、こうした現場からの声を受けて、多くの人権団体がイスラエル軍による人為的飢饉を批難し、ガザへの支援を進めて来ました。
しかし、ガザの現実を発信し続ける各局の報道関係者は、ガザの領土支配を目論むイスラエルのネタニヤフ首相にとって、完全に邪魔な存在なのです。特に、餓死した子どもの姿などを発信し続けるアルジャジーラのアル=シャリフ記者は、最も憎むべき相手でした。そこでネタニヤフ首相は、イスラエル軍を使って「アル=シャリフは記者を装ってハマスの活動を行なっているハマスの一員だ」というデマを流したのです。
当然、アル=シャリフ記者は自身のSNSで否定しましたし、所属するアルジャジーラも全面的に否定するコメントを出しました。その一方で、「ガザに飢餓などない」と言い張り続けるネタニヤフ首相は、ガザの飢餓を発信し続ける各局の報道関係者の行為を「イスラエルに対する中傷キャンペーンだ」と厳しく批判して来ました。
この対立は、7月に入って一気に雲行きが怪しくなりました。米国ニューヨークに本部を置くCPJ(ジャーナリスト保護委員会)が、アル=シャリフ記者の命の危険を危惧していると表明したのです。CPJによると、イスラエル軍が「中傷キャンペーン」の首謀者の1人としてアル=シャリフ記者の名前を殺害リストに加えたというのです。
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シャリフ記者の「遺書」が証明するネタニヤフの犯罪行為
そして、8月10日、アル=シャリフ記者のいた報道関係者用のテントがイスラエル軍にピンポイントで攻撃され、アル=シャリフ記者は殺害されたのです。
今年6月のイスラエル軍によるイランの核施設などへの一斉空爆を見れば、イスラエル軍の諜報能力がトップクラスであることが分かります。当時、ネタニヤフ首相は、イランの要人らの現在位置を完全に把握しており、簡単に暗殺が可能だとうそぶいていました。こうした前提を踏まえれば、イスラエル軍が民間の記者の居場所を掴むことなど造作もなかったのでしょう。
しかし、アル=シャリフ記者自身も、自分がイスラエル軍から狙われていることは以前から知っていました。それでも、目の前で多くの子どもたちを含む民間人が殺され続けている現状を世界に発信するため、文字通り命を懸けて取材していたのです。そのため、アル=シャリフ記者は、今年4月6日の時点で遺書を書き、もしも自分が殺害されたら公開するようにと、家族に託していたのです。
そして、8月10日にアル=シャリフ記者は殺害され、翌8月11日、家族が託された最後のメッセージを公開しました。
これが私の遺言であり、最後のメッセージです。これらの言葉があなたに届いたのなら、イスラエルが私を殺し、私の口を塞ぐことに成功したのだと知ってください。あなたとアッラーの慈悲と祝福に平安あれ。
という言葉で始まるメッセージは、とても長いので全文を紹介することはできませんが、全体としてはアッラーへの感謝とイスラエルによる残虐な行為について書かれていました。
This is my will and my final message. If these words reach you, know that Israel has succeeded in killing me and silencing my voice. First, peace be upon you and Allah’s mercy and blessings.
Allah knows I gave every effort and all my strength to be a support and a voice for my…
— ??? ?????? Anas Al-Sharif (@AnasAlSharif0) August 10, 2025
● https://x.com/AnasAlSharif0/status/1954670507128914219
しかし、何よりも重要なのは、このメッセージの内容ではなく、このメッセージが「ネタニヤフ首相が軍を使って民間の記者を暗殺した」という犯罪行為の動かぬ証拠だという点です。そして、常に保身しか考えていないネタニヤフ首相が狙っているのは、アル=シャリフ記者だけではないという点です。
冒頭に引いた8月25日のナセル病院への空爆について、あたしは欧米の報道に沿って「イスラエル軍の二度に渡る空爆」と書きました。しかし、さらに詳しい現地の報道によると、イスラエル軍は一度目の空爆を行なった後、しばらく時間を置き、空爆現場に各社の記者やカメラマンが駆けつけて来るのを待ち、報道関係者が集まったタイミングで同じ場所に二度目の空爆を行なったというのです。
そうでなければ、通常の空爆で、AP通信、ロイター通信、アルジャジーラの報道関係者が5人も死亡することなどありえません。つまり、ネタニヤフ首相は、1人でも多くの報道関係者を殺害し、ガザの現状が世界へ発信されることを妨害しようとしているのです。
死者5万3,000人のうち83.2%が民間人というガザの異常
さて、話は変わって8月21日、イギリスの「ガーディアン紙」が驚くべきスクープを報じました。同紙が、ヘブライ語の「ローカルコール紙」、イスラエル・パレスチナの「+972」誌との共同調査で入手したイスラエル軍の機密データによると、2023年10月に現在の戦争が始まってから今年5月までに、イスラエル軍がガザで殺害したハマス戦闘員の総数が「約8,900人」だったというのです。
今年5月までに、イスラエル軍によって殺害されたガザのパレスチナ人は、少なくとも5万3,000人だと言われています。今だに崩れたガレキの下に放置されたままの遺体が1万人とも2万人とも推測されているため、独自調査をしたロンドン大学では「7万人超」と見積もった論文を公表しています。
しかし、そうした未発見の遺体は数に入れず、確実に遺体が確認された5万3,000人という死者数を母数としても、イスラエル軍が約8,900人と把握しているハマス戦闘員の割合はわずか16.8%であり、残りの83.2%、4万4,000人超は、子どもや女性やお年寄りなどの民間人だったのです。
紛争問題の専門家によると、1989年以降の戦争や紛争で、民間人の死者数が戦闘員の死者数を上回ったのは「スレブレニツァ包囲戦」「ルワンダ虐殺」「2022年のマリウポリ包囲戦」の3例だけだそうです。
そして、死者5万3,000人のうち4万4,000人超が民間人というガザの異常な数字は、過去に例を見ないといいます。さらには「民間人への無差別虐殺」が国際社会から批判されているシリアやスーダンの内戦よりも、ガザのほうが民間人の死亡率が高いのです。
イギリスの大学「ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス」でグローバル・ガバナンスを専門とするメアリー・カルドール教授によると、イスラエルのネタニヤフ首相の目的は「ガザの領土支配」であり、そのためには「民間人の殺害」が必須とのこと。
つまり、ネタニヤフ首相が「ハマスが隠れている」という大義名分で繰り返して来た民間施設への空爆は、ハマスの有無に関わらず「民間人の殺害」が目的だった可能性が高いのです。
そう考えれば、死者のうち83.2%が民間人という異常な数字も、ガザの現状を世界へ報じ続ける報道関係者の暗殺も、すべてのツジツマが合って来るのです。そして、ネタニヤフ首相がやる気マンマンで続けて来たジェノサイドが、どこからどう見ても戦争犯罪であることの証明となるのです。
(『きっこのメルマガ』2025年8月27日号より一部抜粋・文中敬称略)
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