「シリコンバレー発のムーブメント」として伝えられつつあるという問題
こういうビジネスは、アメリカでは以前から行われているらしい。
ほとんどの場合は、貧しい若者が、富裕層のために血漿を提供するというもので、提供者には100ドル前後のギフトカードが渡されるという。日本円で約1万5,000円だ。
年長者が若者から血をもらって若返ろうとするなんて、私には、ホラーとしか感じられないが、キリスト教圏では、死は「倒すべき敵」であり、若さは「神」に近い理想像とされる。だからこそ、「若者の血で老化を止める」という研究も真剣に議論され、投資も行われてきたという。
そもそもキリスト教圏では、世界の終わりの時に、最後の審判が開かれ、信者には「復活の身体」「栄光の身体」と呼ばれる、老いも病も超越した永久不滅の身体が与えられるとされている。
つまり「若返り」や「死なない身体」は、宗教的な理想像とも親和性があり、「死を倒すために科学に投資する」のは自然な流れでもあるのだ。
ジョンソンだけでなく、Amazon創業者、Google創業者、ChatGPTのOpenAI創業者などシリコンバレーの大富豪たちは、こぞって若返りや不老不死研究のために巨額の資金を投じている。
一方、本来の日本人には、そのような価値観はない。
「できるだけ若々しくいたい」「元気でいたい」という気構えはあっても、根本的に、死ぬことや老いることは「敵」ではなく、自然のめぐりとして受け入れようとするからだ。
だから、還暦、古希、喜寿、傘寿、米寿、卒寿……と「老いを祝う」文化がある。寺で薬師如来や延命地蔵を拝み、「病気治癒」「健康」「長寿」を願う人はいても、「永久に生きられますように」と願う人はいないだろう。
死に際しては、「老衰で眠るように亡くなった」「立派に天寿をまっとうして、安らかに旅立った」という意味で「大往生」と言う。死ぬことを「敗北」とは捉えないからこそ、日本にはそのような表現が存在するのだ。
ジョンソンはこのほかにも、米国内で禁止されている「フォリスタチン遺伝子治療」を受けるために、規制のゆるい海外の島まで通っている。DNAを体内に注入する危険な実験だ。
この人、そのうち死ぬんじゃないかと思えてくるのは、私が最新医療に疎いからなのだろうか?
アメリカの大富豪は「死を打ち負かす」ために巨額を投じ、サプリメントをがぶがぶ飲んで「どんとだーい!」と絶叫し、若者の血を求め、変化しない身体を求める。
一方で本来の日本人は、老いを祝い、死を自然な節理として考え、「変化」や「移ろい」を受け入れていく観念がある。
ブライアン・ジョンソンの奇異な日常を見て、文化と信仰、死生観の大きな違いが見えた。
ただ問題は、これが「シリコンバレー発のムーブメント」として伝えられつつあることだ。日々、米国のITサービスを利用する私たちは、知らず知らずのうちに、本来の日本人とはかけ離れたイデオロギーを、情報として、あるいは商売のキャッチフレーズとして注ぎ込まれていることがある。
踊らされないように気を付けておきたい。もっとも、ゆるい「死ぬな教」は、すでに日本人を覆い尽くしているのだが。
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