中長期のウィンウィン方針なしでは先へ進めないコメ問題
そんな中で、日系アメリカ系の国府田ファームなどが苦労して作ったにもかかわらず、長年日本が食用輸入を拒んできた中粒米(カルローズなど)が、日本で本格的に流通し始めています。外食チェーンなどでは導入は始まっており、このままですと日本人の一般家庭の食卓でも中粒米が主流になるかもしれません。反対に、最高の食味を誇る短粒米(ジャポニカ米)の良品は、国内の高級料亭向け以外は輸出に回って貴重品になるかもしれないのです。
クールジャパンなどと威勢のいいことを言って、日本の食文化を宣伝した結果、その価値が国際社会に「バレて」しまい、先進国経済の価格形成プロセスに引っ張りこまれてしまいました。その一方で、日本国内は相変わらず生産性が低く、高度知的産業が育たない中で、経済成長が進まず、家計の消費パワーは伸びていません。その結果として、主食のコメですら良品については「日本のコメを日本の消費者が買い負ける」という悲しい展開になりつつあるわけです。
まず、このコメ問題については、この全体像の認識が必要です。ですが、こんな複雑な話は世論に対して説明するにはよほどのスキルがないと無理。それに、選挙区別に見ていけば、コメの場合は消費地と生産地で利害は正反対になります。特に前回の参院選では、消費地向けに訴えた米価引き下げ政策が、生産地では嫌われて自民党は大敗してしまいました。
では、その張本人である小泉農水相を首班に選ばず、改めて生産地に媚びた米価上昇追認を打ち出したら、自分党は勝てるのかというと、その場合は消費地では惨敗するかもしれません。いやいや、両方の票がほしいというのであれば、コメ問題は争点にできないことになります。
そして野党の場合は、迷走する自民党を叩けばいいのですから、実にゲームでポイントを取るのは簡単です。ですが、構図としては無責任極まりません。では、消費地も生産地もウィンウィンになるようにするには、どうしたらいいのかというと、より一層の大規模化を進めるしかないわけです。
政策としては、それしかないのですが、大規模化を進めると小規模な兼業農家が猛反発します。ですから、基本的には争点にはできないことになります。そして、総裁選に勝って内閣を作れば、結局は袋叩きのサンドバッグになるだけです。
例えばですが、小泉氏の場合は農業改革に取り組んだ実績を背景に、一気に「大規模化」を訴えて正面突破ができるのか、あるいは専門家なりに巧妙に「利害相反から逃げて、言葉のゲームでごまかすのか」ということになると思います。
例えば高市氏の場合は、適当にごまかしながら、それこそ「生産地の小規模兼業農家」の中に一定数はある「保守イデオロギー」という飴玉を配りながら、時間稼ぎをするということになるのだと思います。
いずれにしても、どんな政権ができても、コメの問題は中長期のウィンウィン方針がなければ、先へは進めないわけです。かといって、仮に大規模化へ突き進むと、地方票を敵に回すだけでなく、都市部でも「有機農法の小規模な農家のブランド米がいいな」などという新興保守政党が邪魔をする中で、本当に無理ゲーをどう突破するかという話になります。
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