もはやかなりの「無理ゲー」になっている物価対策
もう一つの物価対策も、かなりの無理ゲーになっています。現在の物価高は、まずエネルギーコストの上昇があり、そこに人件費アップが乗っています。これは日本だけでなく、全世界的なトレンドですから、例えば建設資材とか輸入穀物などの場合は、そうした世界の物価高に、円安効果が乗っかって大変な事になっているわけです。
では、日本の場合は賃金を抑制すればいいのかというと、さすがに「現時点での賃金は安すぎる」ので、賃金は上げて国内消費を増やす政策は必要ということで、これはある程度の合意が取れていると思います。問題は円安です。円安はかなり危険水域にはいっており、このままですと国民生活が破綻します。
その一方で、米国の景気は「もしかしたら」スローダウンしているのかもしれず、これを過大に考えるトランプ政権は「利下げ」を強く主張しています。連銀がもしも、これに屈して利下げをしますと、日米の金利差は縮まって、日本円には円高圧力が生じます。そうなれば、原油をはじめとして、日本から見た輸入品の物価は下がるので、物価問題としては一息つきます。
ですが、もしかすると日本円に対する世界の市場の評価は、「日本経済の実力」が地盤沈下する中では、そうは簡単に円高には振れないかもしれません。反対に円安が加速するということも想定しないといけません。仮にこれ以上の勢いで円安が加速すると、石油も小麦も、そして喫緊の課題である建設資材なども更に一段高騰することになります。そうすると、日本の国内経済は激しく動揺します。
では、日本の方も金利を少し上げて調整と行きたいところですが、国家債務が天文学的な現状では、僅かな金利引き上げでも、国債の利払いが拡大することとなり、事実上借金が複利で膨張していきます。
その一方で、現在の日本経済の中で「リッチなグループ」、つまり日本発の多国籍企業である成功しているメーカー、金融、商社、その従業員、そして株に投資しているグループなどは、圧倒的に円安を好みます。売上利益の過半は海外で稼ぐ中で、その反映である利益なり、株価が「円に倒すと」膨張するからです。
現在の日本ではそのように、ドルベースの勝ち組と、純粋国内経済の負け組に分けられ、格差が拡大しています。ちなみに、インバウンドで潤う観光産業などは前者にカウントされます。反対に、後者の場合は年々縮小する国内経済、その一方で円安で暴騰する原料、資材、エネルギーコストを食らっています。そんな中で、自公政権という現体制はどうしても前者の利益代表という側面を否定できないわけであり、一定程度の円安を志向することになります。
というわけで、円安が物価高の大きな要因である中でも、国としては円高政策は取れません。そんな中で、物価対策をするにしても、「円高シフト」という根本的な対策は取れないわけで、そうすると国民の生活水準を守るには「給付」または「減税」という対策にならざるを得ません。
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