成立してしまう「一触即発の緊張」が高まる恐ろしい図式
そして最も懸念すべきは、アラブ諸国がイスラエルに突き付ける“時限爆弾”です。
イスラエルの止むことがない欲望は今、ヨルダン川西岸地区の併合にまで及び、それを「アラブ諸国に対する侮辱と脅威」と糾弾したアラブ首長国連邦(UAE)は、2020年のアブラハム合意の破棄の可能性を示唆し、イスラエルとの関係を断って、他のアラブ湾岸諸国と共にイスラエル包囲網に加わる可能性に言及しています。
UAEの存在は、湾岸諸国内では対イスラエル最後の砦と言われていて、アラブ湾岸諸国が挙ってイスラエルに攻撃を加えるような事態にならないように抑制を訴えてきた存在でしたが、国連総会での一般討論の場で、イスラエルのネタニエフ首相がシリア、ヨルダン、イラク、イランを赤く塗った地図を掲げ、今後攻撃も辞さない旨を表明したことを受け、「イスラエルとの関係を断つ」という、激しい外交上のラインを越えることを決めたと思われます。
そしてイスラエルにとって嫌な“イランとの関係修復と接近”を示唆し、イランがUAEに対する攻撃を行わないことを条件に、「イランを含む地域のイスラム諸国と協力して地域の安全保障およびイスラエルからの侵攻に対峙する覚悟を固めること」にしたようです。
この動きの背景には、同時進行で起きていたイランに対する国連安保理決議の再実施に英仏独が賛成し、10月1日付で再発効することがほぼ確実になったことで、中東地域における核の対峙に対する脅威が高まり、アラブ諸国もイスラエルの蛮行に対抗するための核の傘が必要との認識が高まったことで、サウジアラビア王国がパキスタンとNATO型の相互集団安全保障の実施に合意したのを皮切りに、UAEやカタールも追随し、そこに非公式ではあってもイランが関与することで、核兵器を伴う一大安全保障圏が成立しようとしています。
この軍事同盟の仮想敵国はイスラエルということになりますが、この一大安全保障圏の背後には、ロシアと中国が控えており、こうなるとロシア・中国、そしてパキスタンに支えられたアラブ諸国の核の傘と、アメリカと自国の核戦力に支えられるイスラエルの核戦力が対峙して、一触即発の緊張が高まる恐ろしい図式が成立することになります。
Uncontrollableな緊張の高まりと核による対峙の構図を阻もうとトランプ大統領も、アラブ諸国に最大限の配慮を見せて、ネタニエフ首相のヨルダン川西岸地区への攻撃と併合を認めない旨、表明したのに加え、第1次政権時以降大嫌いなはずのトルコのエルドアン大統領ともホワイトハウスで会談を行ってご機嫌取りを行い、パキスタンの影響力の拡大への対抗策として、相互関税措置を通じて真っ向から対立するインドのモディ首相との会談も受け入れるという動きに出ていますが、正直なところこれまでのところあまり奏功しておらず、中東地域と広域アジア地区(特に西アジアと南アジア)による緊張緩和にはつながっていません。
そしてトランプ大統領の“努力”を無にするつもりなのか、ネタニエフ首相は「イスラエルの国家安全保障のための一連の行動に理解を示さず、ハマスの存続を陰でサポートするような行為に出るなら、イスラエルは再びハマスを匿うカタールへの攻撃を躊躇しない」と述べて、アラブ諸国との全面的な対決への決意ともとることができる発言を行ったため、すでに「イスラエルによるカタールへの攻撃は、アラブ全体への攻撃と捉え、アラブ諸国からの報復の対象となる」と発言していたサウジアラビア王国のモハメッド・ビン・サルマン皇太子を激怒させただけでなく、ドーハ会議に参加していた他のアラブ諸国をも激怒させる結果になってしまったようです。
別件で協議していたカタールやヨルダン、エジプトの高官も怒り心頭で、「近々有事に発展する可能性が高まったので、こちらの案件にも対応する準備をしてほしい」との要請を受け、急ぎ、対応のための緊急度を上げたところです。
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