トランプ以外の全世界が敵。ネタニヤフの「レッドライン超え」が招いたイスラエル“念願の建国以来”の危機

 

アラブ諸国を激怒させたGITAのパレスチナ人を支配下に置く構造

そして先述のGITAによる戦後統治のアレンジメントにも大きな懸念材料が満載です。

GITAのトップにはトランプ大統領が付き、実際の統治機構のかじ取りはブレア英元首相に委ねるというアイデアですが、いろいろと分析が進むにつれ、これが欧米支配の過去を想起させる統治の多層構造(マルチレイヤ─)であることが分かり、すべての決定権は国際統治機構が持ち、肝心のパレスチナ人は最下層に置かれるという内容であることが分かってきました。

「ハマスが戦後統治に関わらない」というアイデアについては良いと思うのですが、この多層構造を取り、かつ当事者であるはずのパレスチナ人を支配下に置く構造に対して、アラブ諸国は激怒しているとのことで、仲介国エジプトやカタールのみならず、戦後復興の成否を左右するサウジアラビア王国やアラブ首長国連邦なども怒りをあらわにしていて、ハマスが受諾するか否かを待つまでもなく、すでに提案は崩壊の危機にあるように見えます。

トランプ提案のアメリカがガザを所有し、リゾート開発を進めてリビエラを建設するが、ガザ住民は周辺国に移住させるという暴案は、アラブ諸国への遠慮から取り下げられた模様ですが、支配と統治は欧米諸国が握り続けるという、歴史から何も学ばない姿が垣間見えてきます。

このような設えにネタニエフ首相が飛びついたことが伝えられたため、アラブ諸国は激怒し、さらにはイスラエル国内からも非難の声が高まり、この和平案の先行きは非常に不透明かつネガティブに見えてきますが、どうでしょうか?

欧州各国はイスラエルの非人道的な行いと国際社会からの要請を無視し続けるイスラエルの姿に業を煮やして、イスラエルを切り離しにかかり、まるでロシアの横暴に対して制裁を加えるがごとく、サッカーやオリンピックをはじめとするスポーツの祭典や、これまで結んできたイスラエルからの武器調達契約の破棄(例としては、スペインのサンチェス首相が7億ユーロの契約の破棄を通達した)、そして諸々の場からの追放を提案し始めています。

イスラエルが誇る圧倒的なレーザーによるミサイル迎撃システムなどは、ウクライナ戦争の煽りで、ロシアからの脅威に備えたい欧州各国にとっては魅力的であるものの、非人道的な行いを止めないイスラエルからの調達が、イスラエルのガザにおける殺戮に使われているという国内での非難が、欧州によるイスラエル切りに発展しているものと考えられます。

アジア地域においては、一応、イスラエルはアジア最西端に位置するというカテゴリーもあるため、100%他所の火事とは言えないことと、アラブ諸国とイラン、トルコを交えた緊張の高まりに加え、国連安保理における特別首脳会合の場でネタニエフ首相がパキスタンを何度も名指しで非難したことを受け、パキスタンからの激しい抗議に加え、パキスタンも加わっている“スタン系”の国々やロシア、中国などからなる回廊諸国の反発も引き起こし、中央アジアから南アジアに至る地域において対イスラエル感情が著しく悪化し、それがすでに触れたサウジアラビア王国やカタール、UAE、そしてイランなどがパキスタンをパートナーに選んで、イスラエルに対応する集団安全保障体制の構築へと駆り立てたのではないかと推測します。

この輪には加わっていないものの、インドもすでにイスラエルの蛮行に対して激しい抗議を行っていますし、我が国日本もイスラエルの行いに対して厳しい非難を行っていることから、イスラエルはアジアを失ったということもできるかと考えます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • トランプ以外の全世界が敵。ネタニヤフの「レッドライン超え」が招いたイスラエル“念願の建国以来”の危機
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け