トランプ以外の全世界が敵。ネタニヤフの「レッドライン超え」が招いたイスラエル“念願の建国以来”の危機

 

イスラエルとの5度目の本格的な戦争に備え始めたアラブ諸国

そしてすでに触れたとおり、アラブ諸国はこれまで追求してきた経済的な発展の優先姿勢から転換し、再びアラブの結束とイスラエルの不条理への対抗に舵を切ろうとしています。

1948年にイスラエルが“建国”されて以来、アラブ諸国はパレスチナ解放の大義を掲げて4度にわたってイスラエルと戦火を交えましたが、1979年のエジプトとイスラエルの平和条約を皮切りに、各国はパレスチナを見捨てる代わりにイスラエルとの結びつきを深めて安定と繁栄を手に入れるべく、自国ファースト政策を優先してきました。

またパレスチナ自治政府も自助努力がなく、他国からの支援におんぶに抱っこの状態に慣れていたことで腐敗構造が深刻化し、民衆の深い失望から生まれたのがハマスと言えます。

ハマスとしては、しばらくの間、鳴りを潜め、イスラエルへの攻撃の機会を伺い、ついに約2年前に大規模攻撃をかけ、ガザの壊滅という大きな代償を払いながら、世界の目をイスラエルの蛮行に向けることには成功したと言えます。

ただ、イスラエルからの猛攻とトランプ大統領による絶対的な庇護にあるネタニエフ政権は、今こそパレスチナを壊滅する絶好の好機ととらえて攻撃の手を緩めず、様々な蛮行や虐殺、そしてジェノサイドさえ正当化して突き進んでいます。

ただイスラエルによるカタールへの攻撃は確実にアラブ諸国のレッドラインを踏み越えることになり、アラブ諸国の間では「イスラエルはもう何をしでかすか分からず、攻撃対象は中東全域に拡げられ、明日狙われるのは自国かもしれない」という恐怖が生まれ、それがアラブの再結集に繋がっていると考えられます。

そしてそれはアラブがイスラエルと対抗するために核による力を求める方向に一気に流れ、これまで警戒してきたイランに対する欧米と国連の仕打ちを目の当たりにして、そのイランを巻き込み、パキスタンを招き入れて核の傘による自国そしてアラブ全域の防衛強化に導くことになりました。

もちろん、その背後にはパキスタンのみならず、中国とロシアという核保有国が控えており、そこにNATOの核を国内空軍基地に配備しているトルコが味方することで、地中海地域をカバーするNATOの抑止力に大きな影が落とされることに繋がりかねないと懸念します。

トランプ大統領がハマスに一方的に突きつけた回答期限がもうすぐやってきます。

カタールとエジプトによると「ハマスからの回答は近く得られるだろう」とのことですが、トランプ大統領の和平案の20項目に対して大きな問題を感じているアラブ諸国は、停戦実現への期待とガザにおける人道状況の即時改善への希望を示しつつも、「これで問題が解決することは無く、この期に及んで欧米の旧植民地意識がギラギラする企てに、アラブが再度騙され、搾取されるわけにはいかない」という統一された意識と認識に基づき、これまでの傍観姿勢を捨て、今、アラブ諸国は、イランとトルコ、パキスタンを巻き込み、そこに中ロの力を加えて、確実に来るべきイスラエルとの5度目の本格的な戦争に備え始めています。

アメリカ以外の味方を失ったイスラエルとネタニエフ首相は、国際社会において完全に孤立し、そしてホロコーストを経験し、それがジェノサイドという定義を生み出したきっかけとなったイスラエルが今、自らジェノサイドの担い手として暴れ、世界を敵に回す愚行に出ています。

自らの圧倒的な経済力と技術力、そして軍事力に支えられ、中東地域における一強体制が生じていますが、その力に奢り、今、自らの行いと孤立により、77年前に築いた念願のユダヤ人国家とイスラエル人の生存を危機に晒しています。

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