新たな火種となる可能性が否定できぬガザ国際暫定統治機構構想
また“イスラエル軍のガザ地区からの撤退”も段階的となっていますが、この“段階的”の判断を誰がするのか、そしてどのような基準で行うのかは明らかにされておらず、いつ何時イスラエルが難癖をつけて撤退を止め、軍を引き返させてガザへの破壊行為を再開し、そしてどさくさに紛れて、ヨルダン川西岸地区への攻撃を激化させることも予想できます。
ヨルダン川西岸地区への攻撃については、アラブ諸国からの圧力もあり、トランプ大統領も「アメリカは容認しない」と発言しているものの、トランプ外交の特徴は“一体何を考え、何をするかわからない”という不透明性であるため、今回の“トランプ大統領の20項目”にハマスが反対するようなそぶりを見せ、和平に向けた動き(たとえ一方的なものであったとしても)が停滞するようなことになれば、ホワイトハウスで発言したように「ネタニエフ首相は必要な行動を取るためのアメリカの全面的な支援を得る」ことになり、その“必要な行動”の定義をネタニエフ首相に一任するのであれば、何が起こるか分かりません。
今回のトランプ大統領による和平案は概ねアラブ諸国とトルコ、パキスタンなどからは前向きな反応を受けていますが、イスラエル軍撤退の基準が曖昧であることと、のちに挙げますが、中東問題の元凶となった欧州各国の三枚舌外交であるサイクス・ピコ協定(英仏露による中東分割)、フセイン・マクマホン協定(イギリスによるアラブ独立の約束)、バルフォア宣言(イギリスによるユダヤ人居住地の建設支援)の悪夢を思い出させるWhite Men’s Controlの再現とさえ言われるブレア元英国首相をヘッドとする“ガザ国際暫定統治機構(GITA)”構想などは、アラブ諸国の猜疑心を掻き立てるには十分すぎるようで、今回のガザ和平案の行方とその後の合意内容の実施の状況によっては、新たな火種となる可能性は否定できません。
特にアラブ諸国にとってレッドラインであり、最近、アラブ諸国への配慮なのか、フランスのマクロン大統領も同じくレッドラインと呼んだ【ヨルダン川西岸地区への攻撃とユダヤ人入植地の拡大】の傾向が見られた場合には、アラブ諸国はもちろん、トルコ、イラン、そして最近、サウジアラビア王国やUAEなどと相互安全保障協定を結んだパキスタン、さらにはその背後にいるロシアと中国のグループと、イスラエルと米国のグループ、取り残された感満載な欧州各国、そしてどのような反応を取るか見えてこないインドなどを巻き込んだ大きな紛争に発展するかもしれません。
10月2日、サウジアラビア王国のMBS(モハメッド・ビン・サルマン)皇太子とイランのペゼシュキアン大統領、そしてトルコのエルドアン大統領が連名で「もし、イスラエルが約束を破り、ヨルダン川西岸地区(West Bank)への攻撃とユダヤ人入植による併合を強行するような事態になれば、アラブ連盟(Arab League)はイスラエルに対して“歴史的な行動”に出ざるを得ないことを宣言する」とイスラエルに対して警告を発するとともに、すでにアラブ連盟に対して“必要なあらゆる準備を行うように”通達し、すでに加盟国からの賛同を得ていることも明かしました。
これは、これまでに見なかった連帯であり、この地域の案件に関わってきた身としては、ちょっと背筋が寒くなっています。
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