トランプが突きつけたハマスにとっては受け入れ難い最後通牒
エスカレーション傾向の非難の矛先は、アメリカにも向かっており、すでにカタールのムハンマド首相兼外相は「このまま、アメリカがイスラエルの蛮行を見て見ぬふりをしたり、支持するようなことを続けたりするのであれば、現在、年間4,000億ドルに上るアメリカ企業との経済的なつながりを全て絶たざるを得ない」と発言し、トランプ大統領とアメリカ政府に対して、一刻も早くガザ地区に対するイスラエルの蛮行を止めさせ、ヨルダン川西岸地区への攻撃、そしてカタールをはじめとするアラブ諸国に対する攻撃を止めるように説得することを強く求めています。
果たしてトランプ大統領はどのような動きに出るのでしょうか?(一応、9月29日のネタニエフ首相との首脳会談時に、直接電話でカタールのムハンマド首相に謝罪をさせるというパフォーマンスを演出しましたが、あまり効果はなかったようです)
いつも各国に一方的にデッドラインを突き付けて、要求の受け入れを迫るトランプ大統領ですが、ここにきてアラブ中東地域における大戦争回避のために、アメリカ政府に残された時間はあまりないように思われます。
そのような中、9月29日にホワイトハウスを訪問したイスラエルのネタニエフ首相に対して、トランプ大統領はガザ和平に対する20項目からなる“新提案”(ガザ紛争終結に向けた包括計画)を提示し、ネタニエフ首相がいくつかの訂正を行った上で、イスラエルが受け入れを行う旨、合意に至りました。
トランプ大統領の表現を借りると「ガザの命運を決めるボールは今、ハマスの側に渡った」と、まさに最後通牒をハマスに突き付けた形になっています。
トランプ大統領が示した一方的なデッドラインは72時間で、「ハマスが受け入れなかった場合には、アメリカの全面支援の下、イスラエルが戦闘を継続し、目的を達成することになる」とのことですが、提案の内容を見る限り、ハマスにとっては受け入れがたいものではないかと感じます。
トランプ新提案の主だった内容ですが、【ガザ停戦】、【戦後統治】、【ハマス構成員の扱い】、そして【パレスチナ国家の扱い】についての4つに分類できるかと思います。
最初のガザ停戦については、【イスラエルとハマス双方が和平案に同意するなら、直ちに戦争を終結】し、【合意の受け入れから72時間以内にハマスが人質全員を返還】し、【イスラエル軍は段階的にガザから完全撤退する】という内容です。
ハマスとしては、「誠実に検討する」と仲介国のカタールとエジプトを通じてアメリカに伝達したようですが、【人質全員の解放は、対イスラエルのカードを手放すこと】を意味し、これまで求め続けてきた“恒久停戦”と“イスラエルのガザからの完全撤退”のための交渉材料を失うことと解釈できるため、果たしてハマス内部の調整がつくかは、これまでの成り行きを見る限り、非常に微妙ではないかと感じます。
イスラエル側は、ネタニエフ首相がトランプ大統領との会談において、トランプ和平プランに合意したものの、閣内の極右勢力からは「ハマス壊滅まで戦闘を継続し、ハマスはもちろんのこと、パレスチナも崩壊させることが重要」という主張が強く、イスラエル国内における政治的な基盤が弱いネタニエフ首相が、この極右の意見を退けて合意の実施を確約できるかも、また微妙です。
その背景には、ネタニエフ首相自身が長年、パレスチナの存在を“イスラエルおよびイスラエル人の生存に対する最大の脅威”と定義づけていることもありますが、何よりもこれまで極右勢力との調和を図り、自らの政治生命の延命に重きを置く姿勢から、停戦のニンジンをぶら下げつつ、常にハマスを攻撃するための口実を探し、「停戦の破綻はハマスが招いたもの」として、イスラエル軍にガザ攻撃を続けさせるというサイクルが繰り返されていることがあります。
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