実質的に放置されている紛争や緊張の高まりの激化
もちろん、安全保障理事会常任理事国5か国(P5)に対する非難決議や制裁も、国連創立から80年経ちますが、確か一度もないはずです。
このような不文律・暗黙のルールをベースに今の国際情勢を見てみると、あることが見えてこないでしょうか?
これらの対象となる国や地域において何らかの形での紛争や緊張の高まりが継続し、激化し、そして実質的に放置されています。
2003年のイラクの大量破壊兵器の所持の有無を巡り、国連安保理が紛糾した結果、時のブッシュ政権は国連飛ばしを行い、有志国連合なるものを組織してイラクに対する空爆とサダム・フセイン政権の打倒に踏み切ったのを機に、国連安保理の役割は軽視され、それぞれの大国(P5)の政治・外交的なアジェンダに沿った強引な“複数枚舌”の外交が猛威を振るい、各地で戦争や紛争が勃発しています。
ロシアは「ウクライナはレーニンが設計した人工的な国家に過ぎず、あくまでもロシアの領土が不当に切り取られた結果できた存在であるので、今、ロシアに返されるべき」という“歴史的領土”という主張と「ロシア人とウクライナ人、ベラルーシ人、そしてスタン系の国々の人たちは皆ロシア人であるため、ロシアがその安全を守るべき」という“ひとつの民”という思想と主張の下、ロシア帝国復活の“幻想”を前面に押し出して、2014年のクリミア半島の併合、2022年2月24日に開始し、すでに3年半の年月が経っているウクライナへの侵攻によるウクライナ東南部4州の一方的な編入、そしてあわよくばウクライナ全土を吸収するという“野望”を正当化しています。
安全保障理事会での対ロ非難は悉く跳ね返し、中国の間接的な支援も得つつ、プーチン大統領特有の外交術と懐柔術で、対ウクライナ蹂躙は続行しています。
アラスカ州アンカレッジでトランプ大統領と米ロ首脳会談を行って、トランプ大統領を“手懐けて”ロシア寄りの発言と提案をさせ、その上「“カウンターパートとしての正統性を認めない”ゼレンスキー大統領との首脳会談を検討する」というカードを巧みに用いて時間稼ぎをし、「停戦協議が進まないのはウクライナのせい」と目くらませを行いつつ、ウクライナ全土に対する苛烈な攻撃の手を弱めず、インフラ設備の破壊に勤しんでいます。
最近では、戦争当初にウクライナ軍の“十八番”として認識されたドローンによる攻撃も、イランや北朝鮮、そして中国からの間接的な技術支援を受けて、国産と輸入型のドローンを大量投入してウクライナを攻撃するのみならず、ウクライナ近郊のNATO加盟国に対する領空侵犯を通じて、NATOの結束の強度と信憑性を試すという賭けに出ています。
ロシアのドローンによる攻撃と偵察を含む対NATO挑発行為は、NATOの防空能力を疲弊させ、かつ高価なミサイルで安価なおもちゃを撃墜させるという離れ業を行って、東欧諸国とバルト三国を攪乱しています。恐らくその内、おもちゃの中に本物の爆弾を積んだものを紛れさせて、攻撃を加えては退くという戦略に移行して、さらなる攪乱を行うものと予想していますが、このような縦横無尽な行いをロシアに許してしまい、なす術がないのが現状です。
その結果、NATOの結束の綻びと、内部崩壊の危機が静かに迫っているように見えます。もともと“欧州(西欧)”に否定的で親ロシアとされたハンガリーは堂々とロシアに対する理解を示すと同時に、最近、ハンガリー領空を侵犯したウクライナのドローンに対する非難を公に強め、「ウクライナは自国に対する悲劇を隠れ蓑にして、周辺国に対しての野心を示しているのではないか」といった、にわかには信じられなくても、なぜか支持を得てしまう主張を展開しています。
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