決して触れられず報じられないイスラエル軍内での悲劇
2023年10月7日にハマスがイスラエルに対して同時テロ攻撃を仕掛け、1,200人のイスラエル人と外国人を殺害し、200名強の人質を取るという暴挙に出た際には、世界はイスラエルとの連帯を示したのですが、その後、私たちが画像を通じてみるイスラエルによる蛮行と、集団虐殺(ジェノサイド)を非難されるほどの攻撃、そして兵糧攻めで人々を飢えさせて殺し、伝染病の流行による殺戮を強行する姿を前に、イスラエルは孤立を深め、ついには”世界の敵”になってしまいました。
これはこれまでイスラエルに対して比較的友好的とされてきたアメリカにおけるユダヤ人も例外ではなく、ついに半数以上がイスラエルの行為の行き過ぎと、イスラエルの行いこそが、自ら反ユダヤ主義を引き起こしている元凶という非難を強め始めました。
それでもなお、ネタニエフ首相が行うハマス掃討作戦は、イスラエル国民からの支持が強く、その背景には「イスラエル人一人を人質にとれば数千人のガザ市民が解放されるという過去の政策がハマスの拡大を許し、イスラエルを危険にさらしているという過ち」を指摘する声が根強いだけでなく、過去のこの政策によって、イスラエル政府はシンワル氏(イスラエル軍の作戦によって死亡したが、彼が10月7日のテロ攻撃の首謀者とされており、元ハマス軍事部門のトップを務めた強硬派)が解放されたという事実を受け、「ハマス、ガザに対しては、仮に人質を失うような事態になっても、必ず壊滅させなくてはならない」というメンタリティーが強まっていること、そして「これを機に恐怖を一掃し、イスラエル国家と国民に安寧をもたらすべき」と主張して支持を高める極右(ユダヤの力とベングビール氏)の存在の高まりが、イスラエル国内でも“停戦”が一筋縄で受け入れられるものではない状況を作り出しています。
ロシア・ウクライナ戦争では、実はウクライナ軍サイドはすでに抵抗の限界をゼレンスキー大統領に進言し、「もし欧米諸国がウクライナに対してロシアと戦うための十分な装備を用意できないのであれば、私たちは負け戦において最後の一人になるまで抵抗するか、ロシアに蹂躙されても生き残るかしかなくなる可能性が高まった。決めてくれ」と伝えたとのことですが、政治リーダーとしてのゼレンスキー大統領は、戦争継続こそが自らの生存条件であり、ロシアに屈する屈辱は受け入れられないという思考が強くあるため、軍と政府の意見の不一致と士気の減少が顕著になってきているようです。
イスラエルについては、ネタニエフ首相は、ゼレンスキー大統領以上に「戦争継続こそが、自らの政治生命の延命措置であり、戦争が続いている間に司法制度を改革し、自らにかかっている有罪の嫌疑をキャンセルアウトしたい」という思惑が、イスラエルの対外的な評判や、イスラエル人の人質の生還よりもプライオリティーが高いと思われるため、独裁者・虐殺の実行者と非難されても戦争の継続を望むようです(ついにトランプ大統領も理解の容量を超えたらしく「ビビ、最大のチャンスを提供しようとしているのに、どうしてまだ戦いを止めないのだ」と非難し、嘆き、そして距離を置こうとしています。今回のディールが不発に終わったら、恐らくトランプ氏はガザ問題を放棄するものと思われます)。
イスラエル軍は、作戦上は人質の奪還は可能で、ハマスとの交渉・協議なしでも大丈夫との自信を示していますが、その半面、決して触れられず報じられないイスラエル軍内での悲劇と状況の深刻化が明らかになるにつれ、一旦、戦闘を停止して、兵士のメンタルの治療を優先すべきと言う意見が強まっているようです。
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