トランプも止められぬイスラエルとロシアの蛮行。和平より“自己保身”を優先する指導者たちの危険な共通点

 

誰一人として最優先していない「ガザ市民の生存の確保」

この和平協議の信頼性を貶めているのが、おなじみになったイスラエル軍による対ガザ地区攻撃の激化と無差別攻撃の実施、人道支援の停止という矛盾と、あまり報じられませんが、アラブ諸国および背後にいる欧州諸国、そして今ではトランプ大統領のレッドラインとされる“ヨルダン川西岸地区へのイスラエル軍の侵攻とE1地区と呼ばれる東エルサレムの”緩衝地“へのユダヤ人入植の強行と高まるユダヤ人による対パレスチナ人への暴行の激化が、融和の雰囲気を一掃し、
事態をややこしくさせているという報告が入ってきています。

私の推論ではありますが、ハマスとしては人質というカードを手放すことで一旦停戦という見返りを手に入れ、人道支援の再開を獲得したいところですが、「進むも地獄・退くも地獄」というのが現実で、もし今回、何らかの形で和平案(20項目案)を受諾すれば、ハマスの政治的な影響力が低下するばかりか、欧米をまた中東に引き入れるだけでなく、イスラエルの行った虐殺を”許す・見逃す“ことにも繋がりかねず、それを許容できるのかは微妙です。

ただ2年に及ぶ衝突により荒廃したガザの復興プロセスが動き出すことも期待できるため、ハマスの政治部門は受諾を選ぶかもしれません(実際に10月9日の報では、第1段階、つまり人質の全員解放に”は”合意したようです)。

ただ、軍事部門としては、自らが常時殺害の危機に晒され、かつ指導者を相次いで殺害されてきたことと主要なインフラが破壊の限りを尽くされていることから、「これ以上、失うものはない」と強気に出て、メンツを失うよりも、徹底抗戦の道を選ぶ可能性があります。その声が強まっているとの“噂”も聞こえてきています。

そうなると人道支援再開は望めず、イスラエルによる全面攻撃が、アメリカのお墨付きの下、実施されることは避けられず、ハマスとしては存亡の危機に瀕することになります。

ここで問題なのは、アメリカもイスラエルも、ハマスも、そしてアラブ諸国も、誰一人「ガザ市民の生存の確保」を最優先していないことです。

アメリカ案は戦後復興支援について言及していますが、それは自らも深くかかわるGITAが行うばかりでなく、“信頼できるパレスチナ組織”を作ることが条件として挙げられており、ハマスはもちろん、そこに“ガザ市民”の関与があまり考慮されているようには見えません。

また実施時期についても言及がなく、ひとたびハマスの誰かがイスラエルに攻撃を行った瞬間に、ガザ市民はさらなる地獄に晒されることが目に見えているため、いかにこの偶発的な暴発を未然に防ぎ、迅速に人道支援を実施し、かつ再建におけるガザ市民の深い関与が明確に示されることがなければ、“和平”は成立しないと思われます。

そして和平が崩壊した暁には、イスラエルによる破壊が激化し、それに憤慨するアラブ諸国がイスラエルに対する軍事行動に出てくる可能性が高まります。

その際の“軍事衝突”はミサイルの応酬という形式か、すでにウクライナや限定的にガザで見ているようなハイテク化された精密で残虐な形式になるのか、それとも、これはあってはいけないシナリオですが、核兵器の応酬となり、中東アラブ地域が“イスラエルとイラン”に留まらず、欧米と中ロ、そしてそこに中東諸国と相互安全保障合意を結んだパキスタンを交えた核戦争の実験場に発展してしまう最後の箍が外れてしまう危険性をはらんでいるように考えます。

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