ガラパゴスどころかシーラカンスになる日本。EVでもAppleに滅ぼされかねない自動車産業の五里霧中

 

では、どうして今、造船なのかというと、色々な理由があると思います。まず、成熟技術ですから軍事用と民生用の二兎を追えるということがあります。軍事用を手掛けているので、技術的に機密事項が発生して民生用ビジネスが阻害されることが少ないからです。また、製造技術が曲がりなりにも継承されているということがあります。豪華客船の製造などでは日本の造船業界は今でも現役で、当然ことながら現役の技術者が存在します。

ですが、とにかく造船の場合は成熟技術ですので極端なロボット化だとか、英語マニュアルを研究しながらトラブルシューティングなどということはないのです。日本の既存の人材で対応可能というわけです。そして人手不足の問題については、恐らくこの「造船業回帰シナリオ」の中では、外国人労働者を活用する、政府としてはそんなつもりなのだと思います。

付加価値の高い方へと進むのであれば航空、あるいは宇宙航空に進むべきですが、三菱の失敗事例のように、「英語のできるエンジニア」が足りないのは致命的です。そんな中では、世界各国のレギュレーションに対応しながら電装系も含めた複雑なシステムを作り上げるとか、巨大プロジェクトのために初期に投資して完成度の高い設計図を作るというのは、難しいと言えます。

その他にも、エネルギー関連、とりわけ日本のお家芸であった原子力の平和利用技術についても、311以降の原子力の不人気、そして東芝とウェスティングハウスの問題などの結果、現在では若手の技術者の人材層は薄くなっています。ですから、菅直人政権当時にかなり前のめりになっていた、原発輸出ビジネスで成長戦略というような構想は夢のまた夢ということになります。

ここまでお話してきて、大きなストーリーは容易に浮かび上がって来ると思います。それは、次世代に関する人材育成の方針です。具体的には、英語とサイエンスのできる人材を育てるということです。いわゆるエリートクラスの人材の場合は、英語とサイエンスが駆使できるのであれば、当面の選択としては欧米やアジアでグローバルな給与水準を求めていってしまうでしょう。これは余程のことがない限り、止められないと思います。彼らの何割かが、将来の日本に直接間接の貢献をするぐらいの期待に止めておくべきです。

そうではなくて、分厚い中間層を「英語とサイエンスが使える」人材にしてゆく、少なくとも中国、韓国、インドに対抗できるだけの、ある程度の量と質のあるまとまった層として育てるのです。

これは裏返しとして、理数系を本格的にやらず、英語も本格的にやらなかった「事務職志望層」というものを、徹底的に解体することが求められます。言い方を変えれば、20世紀まで、いや残念ながら現在も残る「紙と日本語の事務仕事」を徹底的に解体し、巨大な労働力を「英語とサイエンス」の領域に移動させるのです。

その上で、日本のカルチャーに深く根ざした「正確性を求める美意識」「目に見える美や異常に極めて敏感な感知力」といったもの、あるいは「手先の器用さ」「現実主義的な小回りの効く行動様式」などを上乗せしてゆくのです。そのようにして、20世紀から21世紀初頭にかけて、日本がどうしても届かなかった「ソフトウェアにおける世界市場への浸透」「輸送用機器ビジネスを宇宙航空に展開」ということを可能にしてゆくべきです。

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