ウクライナと欧州を脅し大きな妥協を迫るトランプ
この状況を高みの見物で喜びながら眺めているのが、戦争の当事者であり、それでありながらアメリカと密室で“和平”協議を行うロシアとプーチン大統領でしょう。
トランプ大統領が一刻も早くロシア・ウクライナ戦争の停戦を成し遂げて、米中関係または中東問題にフォーカスを移したいことを理解し、ロシアは自国に有利な条件を“絶対条件”として掲げ、欧州からの横やりを「和平に対する妨害」と非難し、トランプ大統領に欧州各国の説得または威嚇をさせて、ロシアはその間に“停戦”などどこへやら、前線での攻勢を強め、支配地域の拡大に勤しんでいます。
欧州各国が「次は自国がロシアにやられるのではないか」という疑心暗鬼になり、口先ではロシアに厳しい内容の非難を行っていても、実際には何ら行動できない現実を見透かし、プーチン大統領やクレムリンによる威嚇の矛先は欧州に向いています。
プーチン大統領は「ロシアは欧州を攻撃する意図は全くない。それを書面で示して、欧州と取り交わしてもいい。しかし欧州が戦争を望むのであれば、ロシアは受けて立つ用意が整っている」と、どう捉えたらいいのか迷うようなメッセージを突き付け、事実上、欧州各国を欧州に釘付けにし、かつEU内での対ロ姿勢を分裂させることに寄与しています。
欧州各国が、トランプ大統領から突き付けられた要求に沿って、ロシアからのエネルギー資源の輸入や調達を止めたり、グリッドの接続を切断するなどのパフォーマンスを行ったりしてロシアに圧力をかけているアピールを行っていますが、内心では「アメリカは恐らくウクライナを見捨て、欧州を裏切って、ロシアと手を結ぶのではないか」という疑心暗鬼が生じていると同時に、どこかで、でもかなり確信に近い感覚で「ウクライナはロシアには勝てない」という見立てが強まっていることから、ロシアをあまり真正面から刺激することを躊躇する動きも強く、それが欧州の中途半端なロシア対応の姿勢に繋がっているのだと考えます。
結果として、トランプ政権は欧州抜きでのディール・メイキングをより好むことになり、それがウクライナも欧州も除外し、ロシアとアメリカの間でウクライナ(と欧州)の運命を決めてしまおうという傾向が強まることになります。
とはいえ、いろいろな情報を包括的に見てみると、トランプ大統領はあまり欧州との密接な関係の維持には関心がなく、どちらかというとアメリカのお荷物的な印象を抱き、力による国際秩序体制の構築を願って、ロシアや中国とのディール・メイキングに重点を置いているように見えてきます。
今週に入って、トランプ大統領はゼレンスキー大統領(と欧州首脳)に対して、「話し合いの場に参加し、かつ決定に加わりたいのであれば、米ロ案の修正案に対して受け入れ可否の意思表示をせよ」と要求を突きつけ、「これ以上、解決を自ら遅延させるのであれば、アメリカはもう仲介から手を退く」と脅しも行って、大きな妥協を迫っています。
その結果、ゼレンスキー大統領はずっと要求し続けてきたNATOへの加盟を追求しない旨表明し、その条件として「ウクライナが再度侵略されないための安全の確保」を挙げています。アメリカ政府もこの“安全の確保の提供の用意がある”と述べていますが、“安全の確保”が具体的にどのような内容を指すのかは不透明で、まだ“具体的な進展”が期待できるかどうかは分からないのが正直な感覚です。
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